[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。






<それぞれに掴みゆくもの>





「えぇと、ここまでの流れをまとめると・・・」

「カイルとロニの記憶が戻って、私の力を使ってルークの世界へジューダスを探しに来たの」

もともと頭が強い方ではないカイルのためにリアラが至極簡潔にまとめて説明をした。リアラの噛み砕いた説明にカイルがなるほど!と納得するその脇ではお兄ちゃん的ポジションにいるロニが目元を拭っている。
単純思考回路は別に悪くはないと思うけど、悲しいというか・・・。俺は複雑だぜ。
涙ぐむロニへリアラは少しだけ同情を寄せていたが、すぐに表情を引き締めた。するとつられるようにカイルも表情を硬くした。

「ここが・・・ルークの世界で、ジューダスがいるんだよね」

「そのはずなんだけど」

リアラが不安そうに周りを見回した。ロニも警戒するように周囲へ眼を配る。
何処かの廃工場だろうか。人の気配はなく魔物が潜んでいる気配ばかりが三人を包んでいた。
意を決してカイルが歩き出すと二人もそれぞれ武器を携え、出口を探して歩き出した。





*     *     *





ルークはいつの間にか夜が好きになっていた。
旅を共にしている者たちから冷たい視線に曝されない、ひっそりとした夜が好きだった。
焚き火のある位置から少しだけ離れたところに座り、膝頭に顔を埋めたルークは堪えるように唇を噛んだ。

ただ、人を斬った日は悪夢を見ては気持ち悪さから嘔吐することがあった。
幾ら懺悔しても憎悪をぶつけてくる己の手で命を奪ったひとたちの叫びが鼓膜について離れない。
そうした日は怖くて眠れないまま夜を明かすのだ。
辛かった。だけどこれが自分の罪なのだ。

そして、自分はルーク・フォン・ファブレではない。情報を元に造られた複製品だ。
そのことがルークの心を縛り、傷つけた。傷口からは絶えず血が溢れ続けている。
この心の痛みはどうしても治せない。

せめて、彼らがいてくれたら・・・。痛みは和らいだのかもしれないけれど。

その時だった。
何処からか不吉な笑い声が聞こえてきた。
バッと顔上げてルークは注意深く辺りを見回す。
ぐふふ、と妙に耳に馴染みのある特徴ある笑い声が不気味に響き渡る。
ルークはまさかと思いながらも、そっと呼びかけてみた。

「ハロルド・・・?」

「はぁい、私のこと呼んだ?」

「・・・・・・」

本当に出てきた。
ルークは呆然としてひょっこり木々の合間から姿を現した女性を見つめた。
癖の強い濃いピンクの髪が特徴的な女性。
女性はふっくらした唇を軽く釣り上げ、紫色の双眸を細めた。

「何々どうしちゃったの?そんな辛気臭い顔しちゃって」

「いや、ていうかどうやってここに来たんだよ」

「んふふ~、この天才ハロルド様の手にかかればちょちょいのちょいよ」

何をどうやってちょちょいのちょいで済ませたのか、とても気になったが訊いた後で後悔するのも嫌なので、ルークは乾いた笑みと共に曖昧に頷いておいた。と、ハロルドは腰に手を当ててルークをまじまじと見つめてきた。身を乗り出してくるハロルドに若干引き気味でルークが首を傾げた。

「俺の顔に何か付いてる?」

「随分元気がないわねぇ・・・。どうしちゃったの」

「・・・・・・」

「まぁ、いいわ。それじゃ、さっさと行きましょ」

「え、何処に」

「ジューダスを探しに行くのに決まってんでしょ」

ホラホラ、ハロルドは戸惑うルークの背中をぐいぐい強引に押して歩かせる。ルークは肩越しにハロルドを振り返って

「や、でも勝手に抜け出すとみんなに迷惑掛かるから、多分。・・・出発するのは明日でもいいだろ」

「・・・それもそうね」

動きを止めてくれた彼女にホッと安堵の息をつき、そこでさらりと流してしまっていた目的の内容を思い出して目を剥いた。

「てかジューダスこっちに来てんのかよ?!」

「アンタとほぼ同じくらいの時期にこっちへ来ているはずよ。ホラ、エルレインを倒して時間修正がされたでしょ?その時に」

「あ・・・」

旅を共にした仲間たちがそれぞれの時間へ戻っていった。
ただしジューダスは既に死んでいる存在だから、どの時間にも属さないからどうなるかはわからなかった。
そんな不安があるにも関わらず、ジューダスは小さく笑っていた。
自分が消えてしまう可能性があったのに。彼は笑っていたのだ。

「無事だといいな」

「あのジューダスのことだから無事でしょー。アンタやカイルと違って処世術的なものは身に付けてるだろうしね」

「そうだな」

ルークはきゅ、と小さく拳を握り締めて瞳を伏せた。



「―――それで、お話が纏まったところで失礼してもよろしいでしょうか」

唐突に第三者の声がルークとハロルドの間に入り込んできた。ハロルドは紫の双眸を眇めて、いつの間にか背後で佇んでいた長身を見やった。

「誰、アンタ?」

「私はマルクト帝国軍に所属するジェイド・カーティスといいます」

「ふぅん・・・軍ね」

「あっ、ジェイド、ハロルドは別に敵じゃないから!えと―――」

「わたしはハロルド・ベルセリオス。天才科学者よ」

自分で自らを天才と呼んだハロルドは胸を張り、慌てて説明しようとしたルークを遮ってずぃとジェイドへ詰め寄るなり例の不気味な笑みを浮かべた。

「ルークがあんなんになっているのは多少なりともアンタも原因になってるんでしょ?それと、アンタもね」

「・・・・・・」

ハロルドの言葉にルークが息を呑んだ。そしてジェイドの後ろから駆けつけてきたガイにビシッと人差し指を突きつけてハロルドは断言する。ジェイドはピクリと眉を僅かに跳ね上げさせて心外ですとばかりに肩を竦めた。ガイは仲裁に入れずに立ち尽くしているルークを見て、瞳を揺らす。

「何があったかは知らないけど、良い歳した大人がこどもを虐めて楽しむってのは如何なものかと思うんだけど?」

次ルークにあんな顔させたら、このハロルド様特製の発明品をプレゼントしてあげるわ。
語尾にハートがつきそうな口調でいったハロルドはふんと鼻を鳴らしてジェイドたちに背を向けた。
ルークはどうしたものかとハロルドと顔は笑っているのに眼が全く笑っていないジェイドと戸惑い動けずにいるガイを交互に見比べて苦笑いした。



とりあえず、心強い味方がルークには出来たようです。


















この続きは長編ではなく、連作感覚で書いていきます。
纏めるのがヘタなのでルナさんの語りを上手に消化出来ていない気がしてなりません;;
ですが、精一杯語りに答えられるように頑張っていますのでもう少々お付き合いくださいっ。

2008.01.13

※この連作はルナ様のみお持ち帰り可となっています。