<約束したんだよ>





「お前ら名前は?」

テーブルに双子が並んで座り、その向かいに子供二人がちょこんと並ぶ。 ルークは片肘を突いてコップの中のジュースを飲みながら、子供に訊ねた。
そう言えば、ソイツとかコイツ・アイツと指示語で呼んでばかりで不便と言えば不便だし、名前なのだから当然あるのだろうと思っての質問だったのだが。
そんなルークの問いに対し、子供たちは目をぱちりと瞬いて首を左右対称に傾げた。

「ない」

見事に揃ったサウンド。
それに困ったのは双子だ。ルークはう〜んと唸って顎に手をあてて

「名前無いって・・・。飼い主には何て呼ばれてたんだよ」

「かいぬしかは、わからないがおれはサンプル1と呼ばれてた」

「おれサンプルにー」

「サンプル?」

ルークは目を瞬いて子供に訊ねた。意味が解らないと首を捻る弟の隣でアッシュは険しい表情をした。

「まるで試作品みたいな言い方・・・・・・、あ」

そこまで言ってポカンと口を開けたルークがそのまま固まった。アッシュはサンプルと訊いた時点で何となく読めていたので、苦い顔をして子供二人を見ていた。
ルークに似た子供は、目を泳がせて気まずそうに口を閉ざしたルークを見つめ、ふわりと笑った。
その無垢な笑顔に、逆にルークは心を抉られたような感じがして胸が苦しくなった。

「おれたち、あたらしいペットをつくるのにつかわれたサンプルなんだってさ」



その言葉に、双子は何も言葉を発することは出来なかった。





*     *    *





気が付けば、いつも目に映るのは灰色ののっぺりとした硬そうな天井。
物を憶えられるようになった時には既に薬を投与される毎日だった。檻の向こう側には白い服を着た人間が、現れては自分たちを檻から出して沢山注射を打っていった。

最初は何処にでも居る猫と変わらないはずだったのに。

お前たちはこれから新しく開発される薬の投与実験体になるんだ。
これはある双子のDNA・・・まぁ、身体の情報とでも言うのかな。
それをお前たちの身体に入れる。
これは世界中を驚かす新しい一歩なんだよ。
新しい娯楽、ペットを求める消費者に答えようとして私たちの研究チームが開発を始めた薬だ。



動物へ人間の情報を投与して人並みの知識を習得させる。

成功すれば人間にとって大きな成果が得られるだろう。





しかしそれは動物にとっては何の徳もない事だった。





何度も薬を投与されていくうちに、言葉を覚え、薬の副作用か試薬品による突然変異か、子猫たちは中途半端な人間の子供の姿になってしまった。
その後もずっと薬を投与され続ける毎日で、そんな変わり映えの無い絶望的な日々の中で、ふと時折聞こえて来る鳥の鳴き声に興味を抱いたのだ。

灰色の耳をピクンと動かし、つぃと高い場所にある小さな唯一外を見れる穴を見上げた。慣れない二本の足で壁に手をつきながら危なげに立ち上がる。

ピチチチチ、ピチチチ・・・ピチチピチ

鳥の鳴き声。

その時はそれが鳥の鳴き声だとは知らなかった。
けれど、響いてくる音が、とても楽しそうに聞こえてきたのだ。

「<そら>ってどんないろしてるんだろな」

いつか研究員が話していた事を耳にして気になった単語。
穴を見上げながらポツリと零すと、一緒に檻に入っていた子供が答えた。

「青い、ときいた」

「あお・・・」

見上げる穴は外界が見えても、隣に立つ建物の所為で空が見えない。
あお、と繰り返し口の中で呟く。

「おれ、みたいな、そら」

「なら、ここを出ないとな」

「うん。ここをでて」

「・・・いつか、かならず」

「かならず。やくそくだ」

「あぁ、約束だ」

子供たちは静かに誓い合った。





それから数日後、雨の激しい日だった。研究員が湿度の所為で薬の効果が変わるとぶつぶつ文句を言って檻から出していた子供からほんの一瞬だけ眼を離した時だった。
子供たちは目を合わせた瞬間、同時に扉へ向けて走り出した。気が付いた研究員が捕まえようとしても、本来が猫と言うこともあって上手く研究員たちの手をすり抜けて建物の外へ飛び出すことが出来た。しかし降りしきる雨の中、はじめて目にするものばかりで戸惑う二人へ追い討ちをかけるように慌しく響いてくる複数の足音。
意を決して、黒耳の子供が雨音に負けぬように声を張り上げた。

「かならず、空を見ようっ!!」

灰色の耳の子供も笑って答えた。

「みよう!」

互いの手を繋いで、二人は『世界』へ飛び込んでいった。










そして子供たちは拾われた。

巡る世界が気紛れに起こした偶然か、または運命か。



子供たちを拾ったのは、子供たちへ投与されたDNA―情報源の持ち主である赤毛の双子だったのだ。

















2007/06/25 初出
2007/12/03 サイト掲載