<君たちの名前は>





子供たちの話しを聞いた双子はしばし言葉も無く固まっていた。

いつ採取されたのか、自分たちの遺伝子情報を利用してこのような実験がされていたとは。
そしてその実験体が今こうして目の前にいる。
人間では決してあり得ない形の三角耳と獣しか持たないはずの尻尾。
普通の人であればこの子供たちを目にしたとき、気味が悪いと感じるのだろうか。

だけどこの子たちは自ら望んでこの姿になった訳ではないのだ。

まるで他人事のように淡々と自分たちの事を語る子供は、恐らく聞き取った内容そのままを話しているだけで意味が
解っていないのだろう。その証拠にアッシュが子供へ二、三突っ込んだ質問をしても首を傾げるだけだった。
ルークはショックから漸く立ち直ると、朱髪の子供に突然抱きついた。それに驚いたのは抱きつかれた本人だけでな
く、隣に座っていた子供もだった。ぎょっとして身を引く子供と、ぎゅうと抱きしめられて目を白黒させる子供。ルークは
腕の中に小さな子供の身体を守るように、包み込んでいた。



「お前らのこと、俺が絶対守ってやる」



ルークの強い決意が込められた呟やき。子供はそれを訊いて目を瞠ったがすぐに破顔してルークの腕の温もりに身
を委ねてそっと瞼を閉じた。



「・・・・・・ありがとう」









「で、名前だが・・・」

「俺たちが考えて良いのか?」

改めて本題に話を戻す。アッシュとルークの問いに子供は同時に首を縦に振る。

「う〜ん、でもいざ考えてみると、名前ってムズカシイよなぁ」

「・・・・・・」

それぞれに拾ってきた子供へ名前を付けることになったは良いが、これと言って思い浮かぶものが無い。
アッシュは腕を組み難しい顔をしてひたすら名前を考えることに没頭している。ルークは兄の隣でテーブルに伏して唸ってた。その様子を子供たちは大人しく見ている。

やがてルークが思いついたのか、ぱっと身体を起こして目を輝かせながら朱髪の子供にびしりと食指を向けて叫んだ。

「ルカ!」

「るか?」

「そう、ルカ!良いだろ、それがお前の名前だっ!!」

ルカルカ、と連呼してルークは満足そうに笑った。ルカ、と名づけられた朱髪の子供もルカと口の中で復唱すると嬉しそうに笑う。弟組みの名前が決定したその脇でアッシュの向かいに大人しく座っていた紅毛の子供は、ルカの名を呼び嬉しそうにはしゃぐルークをじっと見ていた。それからつぅと視線を流して未だ悩み続けている兄を窺う。と、アッシュが良し、と小さく言ったのを黒い三角耳が捕えてピクリと反応した。

「お前は・・・カイ、だ」

「・・・カイ?」

「あぁ。・・・気に入らないか?」

眉をひそめたアッシュに、カイと名前をつけられた子供は慌てて首を横に振る。

「そんなことはない。うれしい。ありがとう」

カイはテーブルに身を乗り出して早口に礼を述べた。

ルカとカイ。

子供たちの名前も決まって、一風変わった赤毛四人の生活が始まった。 





*   *   *   *   *





ルカとカイを拾ったその翌朝。

制服の上からエプロンを身に着けてキッチンに立つアッシュがいた。
左手でフライパンを傾けて流し入れた溶き卵を広げる。程よく固まったところでフライ返しを使いながら卵を巻いていく。出来上がった卵焼きをまな板の上で均等に切り分けて二つ並んだ弁当箱に二個ずつ詰める。残りは二枚の皿の上にのせる。続いて電子レンジで解凍した冷凍食品を適当に押し込んで、今日の弁当は出来上がり。皿の方には茹でたウィンナーを追加してレタスも添える。本当なら卵焼きよりスクランブルエッグの方が見栄えは良かったのだろうが、いちいち別個に作っていられるほど朝は余裕が無い。おかずも卵焼きとウィンナーの二種類しかないがそこは我慢してもらおう。弁当を包み、皿をテーブルに置いてエプロンを脱ぎながらアッシュは声を飛ばした。

「いつまで寝てるんだ!さっさと起きろ・・・・」

途中まで言いかけて、リビングのドアが開かれて現れた赤毛を見たアッシュはその先に続けるはずだった屑がっ、の言葉を呑み込んだ。ドアのところで立ち止まり、まだ眠いのか、目元を擦り大きな欠伸をしたルカはん〜、とぼんやりした表情でアッシュを見た。アッシュは罵倒の変わりに

「おはよう、ルカ」

「ん、おは・・・よう」

再びふわぁと欠伸を漏らすルカにアッシュはテーブルを指差して「朝食が出来てる。もう食べるか?」「ごはん、・・・たべる」ルカが頷くと食器棚からコップを取り出してそれに牛乳を注ぐ。ルカは椅子に座ってぽけっと目の前の皿を見つめていた。漸く目が覚めたのか半分閉じかけていた瞼は今ではしっかり持ち上がっていた。コップをルカの前に置いて、何やらフリーズしている子供にアッシュは食べないのかと訊ねる。するとルカは皿から目を離して

「これ、どうやってたべるんだ?」



今度はアッシュがフリーズする番だった。





ルカに四苦八苦しながら何とかフォークを使わせることに成功してアッシュが子育ては大変なんだなと頭の片隅で思い始め出した頃、再びリビングのドアが開かれた。反射的にドアの方を見やれば、何故かルークとカイが手を繋いで立っていた。ルークは眠気が取れていない様子だったがカイは目が冴えているようだった。しかし眠いながらも身に染み込んでいる朝の挨拶をルークは覇気の無い声で告げた。

「アッシュおはよー」

「おはよう、じゃねぇ!さっさと着替えないと遅刻するぞ」

「え、もうそんな時間?」

「予鈴まであと三十分切ってる」

「げ」

ルークは途端脳が覚醒したのか、宿題まだ終わってないのにと蒼褪めた顔で呟いてバタバタと部屋に逆戻りする。リビングの入り口で取り残されたカイは引き返したルークを振り返って、次いでテーブルを見た。ルカに寄り添って食事を食べさせているアッシュと目が合う。

「…おはよう」

「お、おはよう」

アッシュが言うと、カイもぎこちなく挨拶を返す。アッシュはルカの隣の椅子を引いてそこに座るようカイを促す。カイはてててと走り寄って椅子に座る。そしてカイはルカと全く同じ反応を見せた。やはり皿を見つめてぽけっとする。情報源が同じだから、こうも似通う点があるのだろうか。
過去、アッシュとルークがこの子供たちと同じような反応を示したことがあったと知り合いの金髪の青年から訊かされたのを思い出しアッシュは知らずのうちに笑いを漏らしてしまう。

ルカはルークが元である所為もあるのか(ルークは超が付くほどの不器用だったりする)、悪戦苦闘して大変だったのだが、カイは物覚えもはやくあまり手間がかからなかった。慣れない手つきでフォークを掴み卵焼きにぶすりと突き刺して口へ運ぶ子供たちを見たアッシュはそっと息を吐いた。
フォークでこれだけ苦労するのだから、箸の使い方を教えるのはもっと大変なのだろうな。
そう思いながらも、アッシュの口元は何処か楽しそうに綻んでいた。



制服に着替えても寝癖そのままなルークを一喝し、アッシュはむっとした顔で滑って上手くフォークを突き刺せないウィンナーへ挑んでいる子供たちに声をかけた。

「俺たちは学校に行く。お前らはこの部屋でなら好きにして良い。ただしここには入るなよ」

キッチンを指差してアッシュが釘を刺すと、子供たちは素直に頷いた。
それでも不安は拭い取れない。何せ家に置いていくのは無知な子供二人きりなのだ。

なるべく早く帰ってこようとアッシュは心に決め、宿題が出来なかったと絶望に打ちひしがれているルークを玄関に押しやって家を出た。



















2007/12/28 サイトUP