<にゃんこたちと幼馴染と・・・>
学校に到着し、クラスが違うルークと別れ、授業が始まった。
常なら授業へ集中して意識を傾けるアッシュだったが、今は家に残して来たルカとカイが気になってしまい心ここにあらずの状態だった。時間が経過していくにつれて子供たちのことがますます心配になるが学校は抜け出せない。
そう言えば一度早退した時にルークが半べそで家に帰ってきたことがあったなと思い出した。何泣いてるんだと訊ねたらアッシュの所為だと一方的に怒鳴られて意味がわからなかったが、曰く「アッシュが早退すると生徒会の仕事が滞って困る」と生徒会員がルークへ泣きついてくるらしく、それだけは勘弁して欲しいと。
・・・やはり早退は無理か。
ぼぅっと窓の外を見て思考を飛ばすアッシュが授業に一切集中出来ないまま、チャイムが鳴り響いて午前の最後の授業の終わりを告げた。
五分もすると、ルークがひょっこり教室へ顔を出した。アッシュのクラスの教室へ来てルークはいつも弁当を食べる。
今日もいつもの通り弁当を片手にルークがやって来たがその表情は浮かない。恐らくはアッシュと同じ不安を抱いているのだろう。
アッシュは自分が早退しようか考えていたことを告げると、ルークも同じ事を考えていたと返してきた。
窓側の机を向かい合わせにくっつけて弁当を広げながら、どうすると双子会議を始める。議題は先にどちらかが家に帰るか帰らないかについてだ。
「・・・ならお前が先に帰るか?」
「ん〜別に良いけど。ただ、午後の授業は俺の苦手な教科なんだよ・・・」
「そのくらい俺が教えてやる」
「だったら帰っても良いぜ」
「・・・・・だが、お前を家に帰したところで不安が解消されるどころか余計不安が募る気がしてならない」
「じゃあどうするんだよ。ってか、それどういう意味だ!」
さり気無い言われようにルークは思わず箸を振り上げて叫ぶ。アッシュはそれを黙殺して卵焼きを口に運びながら、溜め息を吐いた。
「不安だが学校が終わるまでいよう」
何も起こっていないことを信じて。
* * *
家に残されたルカとカイは見たことの無いものばかりの空間に改めて興味を示していた。与えられた食事は何とか食べ終わり今はソファの上に二人並んで座ってぐるりとリビングを見渡している最中だった。
尻尾を振って耳をピクピク動かしルカはニコニコ楽しそうに笑ってカイに話しかけた。
「ここ、あかるいし、ふしぎなものたくさんあるな」
「そうだな。見ていてあきない」
笑うルカに対してあまり表情の変化を見せていないカイだったが、声音には楽しいと感情が滲み出ていた。そうやってソファを中心に飽きることもなく部屋を見ていた子供たちだったが、不意に響いてきたインターホンの音に揃ってビクリと身体を竦ませた。
「あ・・・アイツら今日は学校か」
そう言えば月曜日だもんな。
インターホンを鳴らした青年は返事を待って数秒後、そうひとりごちると、ジーパンのポケットから双子の弟から渡されていたスペアキーを引っ張り出した。鍵を開けて自分の家のように上がりこむ。
今日は平日で双子は学校に行っている。だからこの家に居る者はいないはずだ。
なのにリビングの方で息を潜ませた誰かがいる気配がある。青年は眉をひそめ、そっと足音忍ばせて扉を脅しを込めて力強く開け放った。
「何者だっ!」
コンビニ袋片手に青年は威勢よく叫んだがソファの上で抱きあっている赤毛の子供を目にすると一瞬にして固まった。
自分の見知った双子にそっくりの子供。見た目は7・8歳というあたりだろうか。
あいつら高校生のはずなのに
「・・・・・・何で小さくなってるんだ?」
フリーズから立ち直った青年が最初に口にしたのは何とも間抜けた疑問だった。
* * *
幼馴染の青年が突然お宅訪問をしていたことなんて知る由もなく、アッシュは放課後を迎えると呼び止めてくるクラスメイトをすっぱり無視して校門でたまたま合流したルークと全力疾走陸上部顔負けの走りで家に辿り着いた。ドアの前でぜぇぜぇ肩で息をしながらアッシュが鍵を差し込んで捻る。そしてドアノブを回すが、ドアは開かなかった。それはドアが最初から開いていたということ。アッシュは隣にいたルークに視線を投げた。
「確かに鍵を掛けて行ったよな」
「うん。掛けてた」
「・・・と、言うことは」
「誰か来た・・・?」
「誰かって誰だ」
「え、それは・・・・・・」
アッシュに切り返されてルークは一瞬言葉に詰まる。しかし次の瞬間
「ガイだ」
双子は同時に呟いて家の中に飛び込んだ。
「お、お帰り二人とも」
「おかえりー」
「おかえり」
ソファに座る三者三様の言葉。二つは心配していたルカとカイのもの。もう一つは
「ガイ!何でお前がいるんだよ!!」
「いやぁ、コンビに行ったついでに立ち寄ってみたんだよ」
ガイと呼ばれた金髪の青年は悪びれた風もなく言うと膝の上に乗せていたルカに、なぁと話しかけた。
ルカもなぁと言い返して何やら仲が良さそうな雰囲気。カイもガイの後ろに回りこんで背中にくっつく形に落ち着いていた。見ていてとても和むその光景。ルカもカイもガイのことを全く警戒していない。それでも頭の痛くなるこの状況にアッシュはこめかみをぐりぐりと揉む。その兄を横目に子供たちと仲良くじゃれているガイを見て心配して損した、ルークがぼやくと、アッシュは何処がだと反射的に怒鳴った。
「あれをどう説明する気だ!」
あれ、と示されているのは尻尾と三角耳。ルークはん〜、と腕を組んで首を傾げて
「ガイならわかってくれるよ。あんなに仲良くしてるし、大丈夫だって!」
笑顔で言い切った。アッシュは口を開いてしかし音を発さずに額に手を当てて代わりに深いふかい溜め息を零した。
2008/01/07 サイトUP