親友のガイの明るいアイスブルーとは違い、深い海を思わせる蒼い瞳と髪を持つ少年。

目の前に立った少年は言葉も無く絶句しているルークに苦笑する。

「そんなに驚きました?」

そう問えば赤い髪の青年はこくりと首を縦に振る。

「だって、お前、前に会った時はこの位で・・・」

言いながらルークは手で身長の高さを示す。
少年は確かにそのくらいでした、と頷く。
ルークは訳が解らず困惑した顔でアッシュに助けを求める。

しかし、事の次第がいまいち把握出来ていないアッシュは、俺に助けを求めるなとヘルプ要請を却下する。
ルークが、がーんと衝撃を受けたような顔をしていたが、そんな事知ったことじゃない。

結局、ルークはストレートに少年へと疑問を投げかけた。

「なぁ。どうしても俺の中だとお前の成長スピードがあってない気がするんだけど。・・・気の所為かな」

「いえ。気の所為じゃないですよ」

半信半疑で投げかけた疑問はあっさり肯定され、再びルークは絶句する。


もう、何が何だか解らない。これは夢か?てか、結局こいつは前に会ったあの時の子供なのか?


思考がパニック状態に陥ったルークを脇目に、それまで黙っていたアッシュが口を開いた。

「回りくどいような言い方をしないで、はっきり言ったらどうだ」

不快感を隠そうともせずにアッシュは低い声でそう言い放つ。

その声は十分に相手を威圧する程の迫力があったが、少年は臆することも無く笑う。

ルークですら僅かに怖いと感じたアッシュの言葉を少年は笑って受け止めた。

余程肝が据わってるのか、はたまた鈍感なのか。

と、唐突に少年はあぁ、そう言えばと呟く。

そして、ふと手にしていた布を頭に巻きなおす。

何がそう言えばなんだと赤毛二人が少年の言葉を待っていると、少年はすっと手を差し出してきた。

「名乗り忘れてました。僕はセルジュ」

「・・・・・・」

「・・・え、あ、俺はルークだよ」

こっちはアッシュと何故か頭痛を堪えるかのように額に手をやっているアッシュを示す。

ルークさんにアッシュさんですね、と笑う少年、セルジュを見ながらやはり何処かこの笑顔がイオン
に似ているなとルークは思う。

ルークもかつて隣で優しく微笑んでくれていた緑髪の彼と一緒に笑っていた時と同じ様に笑う。


手を握り返そうとルークがした時、アッシュは息を吐いて腰に挿してあった剣を抜き、その切っ先をセルジュの喉元へと突きつけた。

思いがけないアッシュの行動にルークはぎょっとして剣を下げさせようと腕にしがみ付くが、アッシ
ュはそれを容易く引き剥がす。

剣を突きつけられていても、尚も平然としている少年を睨みつける。

「何のつもりでこいつに近付く」

「別に何の企みも無いですよ。只、ルークさんが僕にまた会いたいと言ってくれていたので会いに来
たんです」

「・・・本当か?」

視線は少年へと向けたまま、アッシュはルークに確認する。

ルークはハラハラしながらアッシュの行動を見ていたが、話を振られて今の状況を忘れ、必死に記憶
を掘り起こし、該当する記憶を探り当て、言った言ったと叫んだ。

少年とルークの言っていることが一致しているので、アッシュは取り敢えず警戒心を解かないままで
剣を鞘へと収めた。

アッシュが鞘に剣を収めるのを見てルークはホッと安堵する。

こんな街中で流血沙汰にでもなったらとんでもない事になる。

アッシュの方こそ、自分たちが公務中だと言う事を解っているのかと疑いたくなる。

じとっとした視線を向けるがアッシュは何だという風にルークを見る。

・・・アッシュが何考えて行動しているのか本気で知りたい。

はぁ、とルークが嘆息するとアッシュの額の眉間の皺が一本増える。

視線だけで微妙な会話を繰り広げる青年二人に、セルジュは説明はいいのかと控えめに声を掛ける。

はっとしてルークは少年へと向き直り、ゴメンと謝った。

「いえ。えっと、じゃあ簡単に言っちゃいますね。僕は、と言うか僕らは・・・」

「セルジュ」

セルジュがそう言い掛けた所へ、第三者の声が飛び込んできた。

「あ、フェイト」

自分の名を呼んだ人物を見てセルジュはそういった。

フェイト。そう呼ばれた人間は全身を黒い衣で身を包んでいた。背丈はセルジュと丁度同じくらいの
身長。

そして、顔は表情は全く違うがセルジュと同じ。

初めて見る彼等にアッシュは唖然とした。





まさか自分たち以外に被験者と複製品が共に居るとは。