「ガイって本当にルークの保護者だよね」

てか保護者の域を超えてなんか気持ち悪い。アニスはストレートにもそう言い放った。

ルークの髪にブラシを入れていたガイは、えっと表情を失くして固まったが、その下のルークはさも当然
だというように笑った。

「だってそれがガイじゃんか」

「あ、それもそっかー」

アニスちゃんってばお馬鹿さん、てへっなんて小さく舌を出すアニスと笑うルーク。


「お前たちの中の俺のイメージって・・・」

思わずそう呟いたガイに、子供の無邪気なまでの言葉が痛恨の一撃を与えた。

「ぶっちゃけ変態」

声揃えて言われてしまい、ガイは力無く項垂れるしかなかった。



*   *   *   *   *



アニスとルークに変態と言われ、かなり凹みようが激しい金髪の青年は夜になって酒場に行くなりパカ
パカと酒を呑みだした。アルコールはそう高いものではないだろうが、短時間で十杯近くも呑んでいては
酔いの回りは速いだろう。それほど変態呼ばわりされたことがショックだったのだろうか。
自分に言わせて見ればそんなことは今更だと思うのだが。
ジェイドは自棄酒に走っているガイを横目にカウンターに肘を付いてグラスを少しだけ呷る。
ただ本当にガイは『変態と言われたことだけ』を気にして酒を呷っているのか。
ふと、そんな漠然とした疑問が過ぎる。
店員に酒をオーダーしているガイを見つめていると、不意に蒼の双眸と視線が交わった。
既に酔いが回り始めているのか瞳がトロンとしていて頬にも少し赤みがさしている。

「何だだんな人の顔を見つめて」

「いえ、貴方が何を考えているのかが少し気になったもので」

「それは俺のを顔を見ていることの理由になるのか?」

「じっと視線を注いでいれば嫌でも貴方から話を振ってくると思って待っていました」 

「あぁ、そ」

ジェイドが笑いながら言うと、ガイは半眼になって不貞腐れたように再び酒を呷り出した。カランとグラス
の中の氷が音を立てる。少し暗めに調整された灯りの下、交わす言葉も無くグラスを空けていく。ジェイド
はゆっくり酒を味わい楽しみながらしかし、とうとう耐えかねてガイの手からグラスを取り上げた。当然ガイはジ
ェイドに何するんだと噛み付く。
ジェイドはグラスを取り返そうと伸びてきたガイの腕を掴んで、訊ねた。

「何か不安から逃れたいのですか?」 

だからそうやって酔いで気を紛らわせようとしているのですか?

淡々とした口調でジェイドは言った。ジェイドの問いが向けられた途端、ガイの抵抗がぴたりと止まった。
ガイの腕から力が抜けたのに気が付いてジェイドが手を離せば重力に従って腕がカウンターの上に落ちた。
じっとジェイドがガイの反応を待っていると、ガイは俯いて表情を見せること無く力なく笑った。

「だんな、アンタはルークのことをどう思う?」

「・・・・・・」

「そうだよ、アンタの言うとおり、俺は凄い不安で堪らないんだ」

障気を中和して以降のルークの様子に違和感を感じて。
普段はそう変わりなく明るく振舞っているのに、気が付けばルークの表情が暗い時がある。
何か言い知れぬ不安を抱き始めたのは、ルークが言った言葉がきっかけだった。

『世界は何処までも綺麗であり続けるよな。ガイたちがいれば、さ』

儚げにも見える笑顔を浮かべながらルークはそう言ったのだ。

『ガイたちが』とルークは言った。
ならルーク、お前は?その括りにお前は居ないのか?

ガイはそう聞き返したかった。だけど喉まで出かけたその言葉は無理やり飲み込んだのだ。
訊いてはいけないと本能がそう告げていたから。
答えを聞けば、はっきりではなくても良くない答えが返されると。

「なあ、ルークは・・・大丈夫なんだよな。検査では異常は発見されなかったんだろう?」

「えぇ」

「じゃあどうして」

こんなにも不安に駆られるのだろう。


ガイは前髪をくしゃりと握り潰して掠れた声で大切な親友の名を呟いた。





*   *   *   *   *





「―――と、こういう事がありました」

ジェイドは向かいに座るルークに話していた。ルークはベッドに胡坐をかいて座り黙って
耳を傾けていた。
話し終えたジェイドは口を閉ざすとルークの反応を静かに待っていた。
部屋の中には静寂に紛れて時折一人分の寝息が響いていた。

「ガイは馬鹿だよなあ。俺の心配なんか・・・しなくても、いいのに」

ルークは隣のベッドで酔い潰れて寝てしまった青年を肩越しに見て苦笑した。

「でも、心配せずにはいられないのでしょうね」

椅子に腰掛けたジェイドが金髪に指を通すルークに小さく肩を竦めてみせると赤毛があはは
と笑った。夢の中の住人となっている幼馴染を見つめる翡翠の瞳は揺れていた。潤んだ目元
を強引に拭って、ルークはガイの額へ自分のそれを重ねた。

「ガイ、ありがとう」

お前がそうやって俺を心配してくれて、すごい嬉しい。それと同時に申し訳なくも思う。
真実を告げないで、俺は嘘をついているんだから。
だけどガイのことだから、なんとなく気が付いてるんだろうなって思ってた。そうしたら案
の定だ。
でもガイは俺に訊ねることを我慢してくれていた。気づいてたよ。あの時ガイが何か聞きた
そうにしていたの。
それに気が付いていながら、俺は黙っていたんだ。
最低だよな。俺はずっとずっとガイに甘えてた。

だけどあともう少しだけ、甘えさせてくれ。

・・・我侭でごめんな。

きっと不安にさせたままになるんだろうけど、許して欲しい。



そっと額を離したとき、ガイの瞼が震えて蒼の双眸が覗いた。ぎょっとして身を引いたが、
ルークの身体はガイの腕に捕らえられて動けなくなった。

「俺はいつまでも待ってるからな。いつか、ちゃんと話せよ」

ガイは柔らかい微笑みを見せると、再び瞼を閉ざして寝てしまった。捕まっていたルークは
巻き込まれる形でガイと一緒にベッドに沈み込む。抜け出そうとしてもがっちり拘束されて
しまっていて無理そうだった。困り果てて縋る様な視線をジェイドに向けたがジェイドはに
こりと笑って

「良いじゃないですか、仲の良い親子みたいで微笑ましいですよ」

「・・・・・・」

助ける気さらさら無いですオーラにルークはぶすっとしたが、ジェイドはさらりとそれを無
視して自分のベッドに潜り込んでしまった。抜け出すのを諦めたルークは灯りも消され、暗
くなった室内で、間近にあるガイの顔をぼんやり眺めていた。



「お前って俺のさ―――――」










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茅(チガヤ) 意味:子供の守護神