<forget-me-not―俺の想いはそこへ行くのか・・・>
・・・完璧にアッシュがルークを見る度に挙動不審になっている気がする。それは間違いなく気の所為じゃないと
思う。旦那とアニスがこそこそ話しているのを確かに訊いたしな・・・。
「顔を紅くして恋する乙女みたい」
あぁ・・・何だかもう踏んだり蹴ったりな感じがしてきた。
「おや、ガイ。何を一人で唸ってるんですか?」
端から見てると変人みたいですよ〜、ジェイドがのんびりとした調子で歩いてくる。俺は頭を抱えたままジェイドを
見た。
「・・・ルークが取られる」
「おや、これはまた大変そうな悩みですねぇ」
「思いきり関係ないって顔してるぞ」
「えぇ、だって関係ありませんから」
にいぃっこり。半眼で文句を言えば、極上の笑みでそう切り替えされた。
くそっと悪態を吐いて旦那に背を向ける。
見えなくなった背後で、ジェイドの唇が微かに動いていたのなんて知らずに俺は只管ルークの事を考え続けてい
た。
「私の想いはどうなるんでしょうね・・・」
一体昨夜のうちに何があったのか・・・。
悩んでいるうちにまた夜が来た。
俺がアッシュとルークが二人きりになるのを嫌がってるって言うのに何で旦那は変えてくれないかなぁ!
昼間のアッシュの態度もまた変だったし。花の名前をわざわざ教えてくれるとか、絶対にアッシュの性格じゃあり
えない筈なのに・・・。
お願いだから誰か俺を助けてください。
一先ずグルグルとループしてしまう思考から逃げるように、酒を飲んで気を紛らわす事にした。
「何時まで飲んでいるつもりですか?」
「・・・酔いが完璧に回るまで」
酒場のカウンターに向かいグラスを傾けていると、ジェイドがやってきた。ジェイドは当然のように隣に座り、バー
テンダーに酒を注文している。俺の手にしたグラスの中でカラリと氷が音を立てる。空になったグラスをカウンター
に置けば自然と酒が注がれ、それを俺が一息に煽る。アルコールの強い酒ばかりを飲んでいたから、2・3杯の
時点で結構酔いが回り始めていた。ジェイドにも酒が出され、彼もまたそれを少し傾ける。女性の肌みたいに白い
喉が上下するのをぼんやりと見ていると、突然伸びてきたすらりとした指に額を弾かれた。驚いて弾かれた箇所
を抑えながら旦那を見ると
「そんなに熱心に見られていると居心地が悪いので止めてもらえますか?」
「あぁ・・・悪い」
そんなに凝視していたかと呟くとまじまじと見つめられていましたよと答えが返ってきて恥かしくなって首を竦め
た。優雅にグラスを傾け続けるジェイドに、俺はふと疑問に思った事を口にしてみた。
「なぁアンタは好きな人が出来たことはないのかい?」
一瞬だけジェイドの動きが止まった気がした。でもそれはほんの一瞬の事で、俺の問いに反応して止まったのか
はよく解らない。旦那はちらりと紅い瞳をこちらに向けた。俺がじっと待っていると、旦那が溜息を零した。それか
ら眼鏡のブリッジを押し上げて只一言ありますよと答えた。
居たのか。
俺が目を丸くして思わず声に出すと、旦那が心外ですねぇと口にしながらも余りそうは思って無さそうな声音で言
った。反射的に謝りながら、俺は再度訊ねてみた。
「今も好きなのか?」
「・・・・・・」
ジェイドは直ぐには答えてくれずに、グラスを空にする事を優先していた。
辛抱強く待っていると、ジェイドが酒の御代を出して立ち上がり様に
「今は違うかもしれませんね」
とだけ言い残して酒場を出て行ってしまった。
旦那の他人事のような言い回しが腑に落ちない無いまま、俺もグラスに残っていた酒を飲み干して宿屋に戻った。
先に戻った旦那は既に寝に入ったらしく、部屋の明かりが消されていた。起こさないよう足音を忍ばせながら、自
分のベッドに潜り込んだ。
気になって気になって仕方が無いルーク達の様子は朝一で確認しよう。
そう決意して眠りに着いた。
翌朝パッチリ目が覚めた瞬間ベッドから飛び起きて身支度も適当にルークの居る部屋に向かった。隣だから、ド
アを開ければ直ぐのところだ。俺は中の音を訊き取ろうとしてドアにへばり付いて耳を欹てた。
『じゃあ俺も誓うよ。・・・アッシュに真実の愛をずっとずっと永遠に捧げることを』
『なら・・・これは二人の―――』
『約束だ』
二人が同時に言った言葉を訊いて、俺はドアから離れた。
何だか自分の中でガラガラと何かが崩れ落ちるような音が聞こえたのは決して空耳じゃないはずだ。
はぁ、と盛大に溜息を吐く。
俺の想いは告げず終い、か。まさかあの二人が結局両想いになるとは・・・。
アレだ。夕日に向かって力一杯叫びたい。別に何をって言うのは無いけれど。
ルークの前でどんな顔をしたらいいだろう。
あぁ、胸が痛い。ついでに頭も痛い。あ、これは昨夜の酒の所為か。
・・・兎に角。アッシュに今度軽く嫌がらせの一つでもしないと気が収まらない。
歩いている時にさり気無く足を引っ掛けて転ばせてやろうか。
子供っぽいけどそれぐらいしても良いよな。
「・・・一人で百面相して楽しいですか?」
「うぉわ?!旦那何時の間に!」
「先程から居ましたよ。貴方が気がつかなかっただけです」
「先程って・・・」
「ガイが溜息を吐く辺りからですね」
「あぁ・・・」
俺が一人で悶々と考えている時にはもう居たのか。
ドアを互いに挟んだ状態で視線を交わす。
「あの二人は結局両想いのようですね、ガイ」
「・・・・・・ルークぅぅ」
「まぁまぁ。貴方にも何時か春が訪れますよ。それまでの辛抱です」
「・・・相変らず楽しそうだな、アンタは」
「えぇ、楽しいですよ。あ、私なんて恋人に如何ですか?もれなくピオニー陛下も恋敵役として付いて来ますが」
「謹んで遠慮しておくよ」
「おや、それは残念です。折角想い人を奪われた者同士仲良くしようと思ったのですが」
「・・・・・・は?」
何かの訊き間違いかと思って反射的に聞き返した。だが旦那は居たって真面目な顔をして
「私もルークが好きだったんですよ、実は」
俺にしてみれば大ダメージな発言をさらりとしてのけやがった。呆然として、俺よりも若干位高い位置にある紅い
双眸を見る。言葉もない俺に、ジェイドが近付いてくる。
壁を背にしている俺の真向かいに、しかもかなりの近距離で立ち、俺の顎に手を添えられて、吐息がかかるくら
いまで顔を引き寄せられる。思考がフリーズした俺は何の抵抗もしないでピクリとも動かない。いや、動けなった。
目を見開いて固まっている俺の耳元で、ジェイドが囁いた。
「まぁ、とは言っても、今はルークより貴方の方が好きなんですけどね」
何時までもルークルークと言われてればこちらも嫉妬してしまいますよ。
何も考えられない中で、何かによって軽く唇を塞がれた。・・・柔らかい感触がした。
ジェイドが立ち去った後も暫くその場に突っ立っていた。
唇に触れながら、先程のジェイドの言葉を思い出して、顔を紅くする。
さり気無い告白とかやってくれるな、旦那。
しかもキスまでして・・・!
いやしかし
「キスされても嫌な感じがしなかった・・・」
ん?んん?ちょっと待てよ俺。
まさか、まさかまさかまさかまさか!!!
「そんな訳、無いよな・・・」
自分自身に言い聞かせるように呟いてみたけど、この言葉にまるで説得力が無いのは解りきっていたことだ。
何せ自分の事だから。
今じゃ頭の中に浮かぶのはルークではなくジェイドの顔。
姉上・・・。俺はどうやらジェイドが好きになったようです。どうしよう命が幾つあっても足りなさそうだ。
何せ恋敵の相手が一国の皇帝なんですよ。国家権力を駆使して存在を抹消されそうだ・・・。
・・・・・・・・・・・・洒落にならない。
でも取り合えず、ルークへの想いは吹っ切れそうです。
一先ずジェイガイで落ち着いたようです(ぇ
アシュルク・ジェイガイで一件落着だ!(・・・
すみません;;