鋼ワールドinアシュルク〜ルークSideその1〜





ふと気が付けば、視界に飛び込んでくるのは灰色の天井。
ルークが体を起こすと、近くにいた女性がそれに気が付いて「大佐、目が覚めたようです」とか言っているのが聞
こえた。
大佐?・・・此処は軍なのか?
首を廻らして女性の声がする方を向けば、机に向かって書類を書いている黒髪の青い軍服を纏った男性がいた。
その傍に同じ青の軍服姿の女性が居る。男性は一旦ペンを止め、ルークを見た。

「単刀直入に訊く」

「え・・・はい」

髪と同じ漆黒の瞳。問いかけてくる厳しい声音に無意識に背筋を伸ばす。

「君は何者だ?」

「何者って聞かれても・・・」

此処が何処だかも解らないし、何より一番現状把握が出来ていないのは自分な気がする。
どうしよう、取り敢えず

「・・・旅人。です」

「ほう、旅人」

大佐の目が細められる。嘘、バレたかな。ドキドキしながら次の言葉を待っていると、すっと大佐の目から鋭さが
消えた。はぁ、と大きく溜め息をついてペンを放り出す。突然雰囲気が変わってルークが驚いていると、大佐が

「いきなり空から降ってきて、下にハボック少尉が居なかったら今頃は死んでいたぞ」

指差された方向に短い金髪に咥えタバコの男性が伸びていた。・・・あれがハボック少尉か。

「大分混乱しているようだから、落ち着いた頃に詳しいことぉもう一度訊くが、いいかな?」

「あ・・はい」

ルークがコクリと頷くと、大佐はふと思い付いたように

「そうだ未だ名を言っていなかったな。私はロイ・マスタング。地位は大佐だ。また、二つ名は焔の錬金術師。宜し
く」

「俺はルーク、です。・・・よろしくお願いします」



鬼畜眼鏡な死霊使いの異名を持つ大佐とはまた別に、一癖も二癖もありそうな焔の錬金術として名を知らしめる
無能大佐との出逢い。











「泊まるあてはあるのか?」

そう大佐に問われてからはたと気が付いた。

そうだ、泊まる場所。
てか、まずはアッシュを探さなくちゃ。

黒の双眸に見つめられながら、ルークはふるふる首を横に振った。

「無い・・・です」

「ふむ・・・」

顎に手を当て、大佐は何か考えているのか瞼を閉ざす。その隣でホークアイが背筋を伸ばしたまま動かない。
その彼女にややぁって大佐が声を掛けた。

「中尉。宿の手配を頼めるか?」

「解りました」

ホークアイは一言そう答え頷くと、ロイに背を向けて部屋を出て行った。
ポカンとしてそれを見送って、それからルークは事の成り行きに慌ててロイのデスクに飛びついた。

「あの、平気です!俺野宿とか慣れてるから、わざわざ宿を取ってもらわなくても、てか金・・・」

涼しい顔をして座っているロイにルークが言い募っていると、後ろを通り過ぎながらハボックがルークに耳打ちを
した。その口端は煙草を咥えながら、面白うそうだと言うように軽く吊り上っている。

「女性にしか優しくない大佐の珍し過ぎる提案なんだから、素直に受け入れちゃいな」

「ハボック、余計な事を言うな」

若干苦い顔をしたロイが言う。ハボックはへいへいと返事をして去って行った。

受け入れろと言われても・・・。
困り果ててルークは室内を見回すがどれも同じ目をして言外にハボックと同じ様な事を告げている。

「・・・。じゃあ、お願いします」

この人に借りを作ったら後々が面倒臭そうだ、という言葉を胸中に留めて置きながら、ルークはペコリと大佐に頭
を下げた。



この人は何処と無く某皇帝と似ているような気がしなくも無い。

ルークは大佐の満足そうな笑顔を見てそう思った。










**************










司令部へと来てから、陽が落ちて次の朝。

結局手配してもらった宿へ泊まり、一夜を明かしたルークだった。ふらふらと頼りない足取りで洗面台へと向かい
顔を洗う。冷たい水を思い切り顔に浴びせて、予想以上の冷たさに一人悲鳴を上げる。だがその冷水のお陰で
思考をクリアになり、眼もあっと言う間に冴えた。ベッドのある部屋に戻り、白を基調としている自分の服へ手を伸
ばす。それを何気なく見てから、何時もの様に服を着て食堂へと向かった。



「・・・・・・何か、すげー見られてる気がする」

パンをぼそぼそと齧りながら、ルークはぼやく。
主に向けられているのは、自分自身と言うより寧ろ背中のある一部分の様だが。

「そんなに気になるのか・・・このデザイン」

背中のデザインを思い浮かべながらルークはもう一度ぼやいた。





「あ・・・おはようございます。・・・大佐」

「あぁ、おはよう。ぐっすり眠れたかな?」

「はい、お陰さまで」

「それは良かった」

机に頬杖をついた姿勢のまま満足そうに頷くロイ。
そしてロイはルークの身体をぐるりと見定めるように、視線を廻らせた。

「大佐、俺の身体に何か変な所でもありましたか?」

「いや・・・。君の服装はこれから街中に出るにはちょっと目立ち過ぎると思ってな」

ホークアイ中尉、ロイは彼女を呼ぶと何事かを耳打ちした。ホークアイ中尉はまた昨日と同じ様に頷くと部屋を出
て行った。

「大佐・・・?」

「いや、幾らなんでもヘソ出しは駄目だろう」

「え・・・、あ、すみません」

ロイに指摘され、ルークは謝ってから改めて自分の身体を見下ろしてみた。
大きめなボタンが二つに、そこから先が分かれて後ろに靡くようにデザインされた上着。黒のインナーも短く、ロイ
の指摘するようにヘソ・・・と言うか腹と、ついでに背中が出ている。言われて見れば、この服装はこの辺(この世
界?)では浮いて見えそうだ。

「今中尉が服を用意してくれている」

遠慮は無用だ、ロイはそう言うと書類に眼を通しだした。
これで話は終わりとでも言わんばかりのロイに、ルークは少し迷った後に

「有り難う御座います」

ぺこりと、宿を手配してもらった時と同様に頭を下げた。



ホークアイ中尉が用意してくれた服を着て、ルークは街へと探索へ出た。
余り豊かとは言えない風景が印象的な街中を、物珍しそうにきょろきょろ見渡しながら歩いていく。前方不注意の
まま歩いていたので、ある建物の一角で、突然出てきた大柄な男に思い切りぶつかってしまった。

「いって、すみません」

鼻頭を押さえて呻きながら、ルークは慌てて謝るが、男はルークの肩を掴んでにやりと笑った。

「おいおい、謝って済むんなら軍はいらねぇんだぞ坊主」

あからさまに眉を顰めたルークの視線の先には、男の仲間なのか、ぞろぞろと建物の影からいかにも悪者の顔
をした男達が居た。

ざっと見て15人くらいの集団。

瞬時に把握して、ルークは自分の肩を掴んでいる男を見た。



どの世界にも馬鹿な人間は居るもんだな。





















ゴミ箱で勝手に連載しているトリップネタ。
ルークサイドとアッシュサイドに分けて書いています。
思いつきで書いているので何時終わるのか、それとも終わりが
あるのかは、まだ全然解らないです。

初出 2006/10/28・12/02
加筆修正 2007/03/05