<鋼ワールドinアシュルク〜ルークSideその2〜>
裏路地に連れ込まれ、壁を背に逃げ場を無くしてルークを囲んでじわじわと距離を詰めてくる男集団。
警戒しながらルークは冷静に状況を見ていた。
人数は居るけど、武器は持っていないみたいだし。
さて、どうしようか。
「何だ坊主、ビビッて声も出ねぇか?」
ふいとルークが視線を逸らしたのに気が付いた男が下卑た声で笑う。その男をルークは鬱陶しげに見た。
「別にビビッてねーよ。馬鹿にすんな」
「・・・あぁ、そうかよ。ちっ、むかつくチビだな」
「なっ、俺はチビじゃ・・・!!」
男が吐き捨てた言葉にルークは反射的に言い返す。ムキになったルークに男はニヤリと笑い、ずいと詰め寄っ
て上からルークを見下ろす。まるでお前はチビなんだと言わんばかりのその男を見据えるルークの瞳が僅かに
物騒な光を湛えだす。
「その身長でか?俺にしてみれば十分おチビさんだ―――」
ぶん殴ってやろう。
ルークが心を決め、拳を握り込んで男へ殴りかかろうとした瞬間だった。
「だぁれが花粉並に小さくて目に入らないってー!!!」
「おわぁ?!何だこのチ―――」
「まだ言うかっ!!」
突然飛び込んで来た金髪の少年。
がーっ!と叫んだ少年は飛び込んできた勢いそのままに男の顔へ拳を叩き込む。いきなりの乱入者にルーク含
め一同は唖然としていたが、一人がやられて倒れ伏したのをきっかけに男達が一斉に襲い掛かってきた。
事の展開について行けないで立ち尽くしているルークの目の前で三つ編みにされた金の髪が少年の動きに合わ
せて揺れる。髪色と同色の釣り目がちの瞳が向かって来る男たちを映しだし爛々と輝く。
少年は掌に拳を打ち付け、相手を挑発するように言った。
「喧嘩上等!!!掛かって来い!」
パンパンと手を払い、金髪の少年がふんと鼻を鳴らして倒れ伏した男たちを見て吐き捨てた。
「自業自得!!!」
ルークは肩を回してあ〜、暴れたっ!とか言いながら立ち去ろうとする少年を慌てて引き止めた。
「なあ!」
「ん、何アンタ」
「えっと、助けてくれて有り難うな」
「別にアンタを助けた訳じゃない」
「いや、でもさ」
あっさりと助けた訳ではないと言われ、言葉に詰まるが、必死にルークが言葉を続けようとしていると背後からガ
ションガションと訊きなれない音と一緒に声変わりをしていない少年の声が響いてきた。その音に気が付いた少年
がルークの後ろを見て、手を振る。
「兄さーん!大丈夫・・・、って訊くまでも無いね」
「おう、アル。良くここだって解ったな」
「そりゃ解るよ。・・・あれ、この人は?」
軽く二メートルはあるだろう厳ついデザインをした鎧。白光騎士団のものと多少デザインが似通ってはいる感じが
するが、そちらのはここまで大きくはない。これを動かせるのはきっと自分が知る限りラルゴくらいではないだろう
か。
しかし内側から発せられている声は大分幼さを残した少年の声。
そのギャップの激しさにルークは絶句して鎧を見上げていた。
兄さんと呼ばれた金髪の少年は僅かに肩を竦めて「こいつ等に絡まれたっぽい」「ぽいって、助けに入ったんじゃ
・・・」「んなめんどくせーことするかよ」鎧の方が呆れた声を出した。それからルークの方を見て礼儀正しく頭を下
げた。
「ごめんさい、兄が迷惑を掛けたようで・・・」
「おいアル!俺は迷惑なんて掛けてねぇぞ?!」
「良いから!ほら兄さんも謝って」
アルと呼ばれた鎧に厳しく言われ、少年は唇を尖らせて黙りこんだ。もう、と鎧が再度兄を窘めかけ、そこでルー
クが平静を取り戻した。
「あ、違う違う!俺はコイツに助けられたんだよ」
「ほら、俺は悪くないだろ!!」
ルークの言の後で少年が片腕を上げて勝ち誇ったように叫ぶ。次いで
「この天下の錬金術師エドワード様が他人に迷惑掛けるわけねーだろ!」
胸を張って断言する兄に、鎧がぼそりと突っ込んだ。
「むしろその逆だよ、兄さん」
兄―エドワードはぐっと唸って振り上げた腕をおろした。
世界には色々な兄弟が居るんだな、とルークは少年と鎧のやり取りを見つめポツリと零した。
これがルークとエルリック兄弟の出会いだった。
微妙に続いている連載。どうなることやら…。
初出 03/24・05/16
加筆修正 08/03