<これが俺たちのはじめのいっぽ>
まるで長いながい、悪夢を見ているようだった。
ルークは、ヴァン師匠は良い人で、だから大好きだって。よく話してくれていた。
だけど、”俺”は・・・あの人が、ルークを見るときの眼が時々怖く思えたんだ。
何か、怖ろしいことを考えていそうで、怖かった。
それにルークを見つめるあの人の眼は冷たかった。ヒトを見るのではなくて、モノを見ているかのよう。
俺が感じる不信感をルークに伝えても、ルークは全然話しを聞き入れてくれない。
今にきっと、あの人はとてつもないことを仕出かすに違いない。
それは漠然とした直感に過ぎなかったけど、俺はそう確信していた。
しかしその俺の確信は、現実となった。
出来ることなら、何も起こらないで欲しかったのに。
あぁ、まるで悪夢を見ているようだ・・・。
* * *
アクゼリュスが、ルークの手によって崩落した。魔界の泥の海へ、沢山の人が瓦礫と共に沈んでいった。
ルークは自分がやったなんて信じられなくて、己の罪を否定した。
すると一緒にいた皆は、ガイまでもがルークから離れていってしまった。
ひとり甲板へ残されたルークがしゃがみこんで膝を抱える。涙混じりの声で、俺は悪くないとひたすら繰り返していた。
”俺”以外にもミュウがルークの傍に居たけど、ルークはヴァン師匠に裏切られて、誰に助けを求めたら良いのかわからな
いみたいだった。
―――・・・ルークは、悪くない。ルークだけが悪いんじゃない。
俺がルークへそう声をかけると、ルークが弱弱しい声で返してきた。いつもの強気なルークらしくなかった。
「俺だけって・・・、その言い方じゃ俺に罪はあるみたいじゃねーか。・・・っ、悪いのは師匠だっ!俺は―――」
―――自分の意思で判断しなかったから、この結果になったんだ。そして、ルークを止められなかった俺にも責任が、ある
と思う。
「・・・・・・・っ!!」
ルークの言葉を遮って俺が言うと、ルークがハッと息を呑んだ。それからくしゃりと顔を歪めてしゃくり混じりの嗚咽を漏らす。
俺は今度は声をかけずに黙っていた。
泣くんなら、泣いてしまえばいい。胸につっかえていたものが全て流れ出るまで。
記憶を失くしたルークはいつも息苦しい思いをしてきた。
ことあるごとに以前の”ルーク”と比較され、ルークをルークとして見てもらえていなかった。
その時に現れたのがヴァン師匠だ。ヴァン師匠はルークをルークとして扱ってくれる人だった。
だからルークの中でヴァン師匠は絶対的な人になった。
そしてそれと同時に、ヴァン師匠に不信感を抱く心が、”俺”として生まれた。
“俺”はルークの心の中に存在する、もう一人のルークなんだ。
ユリアシティに到着して街の中心へ向かう途中だった。
一番後ろを歩いていたルークへ、突然誰かが斬りかかってきた。
慌てて剣で弾き返すルークの前に立ちはだかったのは、六神将―鮮血のアッシュだった。
アッシュは蔑むような眼でルークを見ていた。
そして困惑するルークに、アッシュは言い放った。
「てめぇは俺の情報を元に造られた劣化複製品なんだよっ!」
* * *
強制的に意識をアッシュと回線によって繋がれた。それはルークだけじゃなく、俺もだった。
「・・・・・・どうして意識が二つもある」
アッシュが何処となく困惑した声で呟いた。それに対してアッシュに反抗心があるらしいルークがすかさず
『はっ、お前には関係ねーだろ!』
―――・・・えっと、二重人格っていうか、なんていうか。
「二重人格だと?」
『お前は余計なこというなっ』
―――でも説明しないと・・・・・・。ほら、アッシュはそんな、悪い奴じゃないと思うし。
「はあ?」『はあ?』
同時にまったく同じリアクションを返され、俺は言葉に詰まってしまった。ルークはともかく、なぜ本人であるアッシュにまで
驚かれるんだ。
ルークは一時ポカンとした後、ありえねぇ!と騒ぎ出す。
『コイツが悪い奴じゃないわけねえ!だってコイツ六神将なのにヴァン師匠を裏切ったんだぞ?!』
「はっ、ヴァンに裏切られた八つ当たりか?みっともねえ」
―――やっぱりヴァン師匠は、何か良くないことを企んでる気がする。
『・・・っ、どいつもこいつもヴァン師匠を悪く言いやがって!ヴァン師匠は悪くないっ!!!』
「・・・・・・一度コイツを躾直すか」
―――・・・・・・。
「あら、アッシュ。何か言いまして?」
頭の中で会話をしていたのに、思わず神妙な声音で呟いてしまったアッシュの言葉を拾ったナタリアが振り向いて小首を
傾げた。アッシュは何でもないと素っ気無く応えるとワイヨン鏡窟を抜け出てタルタロスに乗り込んでしまった。
そして俺たちとアッシュを繋ぐ回線が切られた。
自分の身体へ意識が戻ったルークが上半身を起こしかけていたのを制して俺はルークを呼んだ。
―――なあ、ルーク。
「んだよ」
―――俺が、表に出てもいいか?
「・・・出てどうすんだよ」
―――まず、罪を償うけじめをつけなくちゃいけないと思うんだ。
「それをお前がやるのか?」
―――意識は俺だけど、身体はルークのだろ?だから二人で。
「・・・・・・」
―――な、ルーク。
「・・・わかったよ」
―――ありがとう。
ルークは少しだけ渋い顔をしていたけど、俺と入れ替わるために眼を閉じた。
俺もイメージだけで目を閉じる。そうすると、瞼の裏に、仏頂面の朱髪の青年が現れた。ルークは口をへの字にしたまま、俺
のほうに両手を差し出してきた。俺も両手を差し出して、掌を重ねる。
最後に互いの額をくっつけて、囁いた。
「 」
次に眼を開けると、室内に灯された音素灯の明かりが飛び込んできた。ついで、ミュウの顔。ミュウは俺が眼を覚ましたこと
が余程嬉しかったのか、ピョンピョン部屋中を飛び跳ねていた。それを中から見ていたルークがうぜぇと漏らす。・・・・・・俺
もちょっとだけ、うぜぇと感じた。
表に出るのは初めてだから、歩くのとか身体を動かすのが上手くいかない。俺が何もないところで躓いて転びかけるたび
に、ルークが怒鳴る。でもその後で歩き方とか、注意をしてくれた。俺がお礼を言えばルークは、いちいち礼なんかいって
んな!とつっけんどんに返してきた。不器用だよな、ルークって。
ルークの指導もあって、ティアの傍に行くまでにはちゃんとした足取りで歩けていた。
気配に気付いたティアが俺のほうを振り返る。ドキッとして背筋を伸ばし、その場に立つ。ティアは冷たい瞳で俺を見ていた。
心底軽蔑しきっているような、そんな瞳だった。
果たして、彼女に俺の想いは伝わるのだろうか。
そんな不安が一瞬過ぎる。すると、ルークが言った。
―――俺も変わる。お前に言われた通り、自分でものごとを判断する。自分の足で、進む。
その声は決意に満ちた声だった。俺はそれを訊きながら、知らずのうちに息を呑んでいた。
―――だから、お前も少しはそのマイナス思考っぽいのを治せよ。
あぁ、ルークは俺のことを励ましてくれてるのか。そう思ったらすぐさま、ばっか違うっつーの!とルークが怒鳴ってきた。そ
れは照れ隠しだろ、なんていえば、ルークが黙り込んだ。やっぱり図星か。
俺はすぅと深呼吸をして気持ちを落ち着けて、ティアをまっすぐに見据えた。
ルークのお蔭で自信が持てた。
大丈夫。きっと伝わる。俺は、ひとりじゃない。ルークが一緒にいてくれる。
俺たちの想いは伝わる。
そしてルークと一緒に罪を償っていくんだ。
これが、俺たちで踏み出す新たな一歩。
rena様よりリクエスト頂きました
『ルークが分裂症気味な話。二つの人格で片方はヴァンを信頼し、片方はヴァンに
怯えている。片方はアッシュを嫌って(苦手?)も、片方はアッシュと仲良くしたい。全
く心が重なり合わないけど、根は優しいルーク。』です。
リク消化が大変遅くなってしまい、申し訳ありませんでした・・・!
それでは、一万打企画へのリクエスト有り難う御座いました!
11.23
※この小説はrena様のみお持ち帰り可となっています。