<雨の日が好きになった日>





「うわぁ、雨降ってるし・・・」

昇降口に立ち尽くしたルークはざぁざぁと降っている雨を眺めてやや呆然とした口調で独りごちた。

あまり成績が芳しくない彼は教師から直々に呼び出されて今まで補習を受けていたのだ。そうしたら思っていたよりも学校を出る時間が遅くなってしまっていた。携帯のフリップを開けて現在の時刻を確認する。

「六時半、か」

パタンとフリップを閉じてため息を一つ。この時間では友人たちは皆帰ってしまっているから、最悪の手段である男同士の相々傘も望めない。
ちゃんと天気予報見てくりゃよかったとぼやいてみるが、既に祭りの後のわけで。ルークはもう一度ため息をつくと意を決して雨の中へ飛び出そうとした。
そのときだった。
突然後ろから肩を掴まれた。ぎょっとしてルークが振り向くとそこには面識の無い人物が立っていた。
長く紅い髪を背中に流して、顔立ちの整った一見して女子から騒がれそうな容姿の男子生徒。
彼は無表情でルークに傘を差し出してきた。

「え、何・・・?」

「傘、ないんだろ。使えばいい」

驚いて傘と彼の顔とを交互に見るルークに相手はいう。ぐい、と無理矢理傘を押し付けられ、ルークはひとまず傘を受け取る。すると彼は鞄の中から折り畳み傘を取り出した(何故二つ持っているんだろう)。不思議そうなルークの視線に気付いたらしい彼が少しだけしかめ面をした。

「・・・置き傘、持って帰るの忘れてたんだよ」



それがルークと彼とのはじめての出逢い。





*     *     *





「それ、アッシュじゃないかしら」

数日後、屋上でお弁当を広げている中でルークが傘を借りた出来事を話すと、クラスメイトのティアがそういった。すると彼女の隣にいたアニスも「赤毛といえばアッシュだろうね〜。目の色は緑色だったんでしょ?」「あ、うん。みどりだった」ルークに確認を取って間違いないねと頷く。

「アッシュっていうんだ」

ルークは音に出して彼の名を呼んでみる。アッシュ。うん、やっぱり格好良いなあ・・・。箸を咥えたままぼんやりするルークにアニスはにやにやしながら顔を寄せていく。

「あれあれ?ルークくん、もしかして惚れちゃったの?」

「・・・そうかもしんない」

「え」

からかおうと思っていったのに、まさか肯定されるとは。そんな感じでアニスが絶句する。ティアはのんびりとお弁当を食べ進めながらルークに行儀が悪いと箸を咥えていることを指摘して

「一目惚れね」

「うあぁ、ティアどうしようっ、俺・・・!」

冷静に言い切ったティアにルークはボッと火が付いたように顔を真っ赤にさせてあわあわする。ティアは相変わらず落ち着き払った様子でルークを灰青色の瞳で見据えた。

「まずは彼と貴方はクラスが違うわけなのだし、喋るきっかけを作るところからはじめないといけないわね」

ルークから視線を外したティアの双眸がルークの傍に置いてあった傘へと流れる。ルークも傘を見つめてごくりと唾を飲み込んだ。
ようやく思考が復活したアニスは卵焼きを口に運びながら、てか肌身離さず傘持ってるのかよと胸中でルークに突っ込んでいた。


昼休みが終わり、午後の授業がはじまった。
ルークは窓際の席で教師の言葉を右から左へ聞き流し、校庭で授業をしているクラスを見ていた。
ジャージを着て走り回る男子の中に、見覚えのある赤色を見つけてルークは思わず声を上げそうになったのを慌てて堪えた。
数日前に自分に傘を貸してくれた男子。アッシュがいた。
校庭に引かれたトラックのスタートラインに立ち、アッシュが合図と同時に走り出す。
運動神経が良いのかな。ルークは一緒に走っていたほかの男子に大差をつけて走りきったアッシュにそんなことを考える。
じぃとアッシュばかりを見ていたら、不意にアッシュの翡翠の瞳ががこちらを向いた気がした。
ドキッと胸が高鳴ったルークはそのままアッシュを見つめ続けていたが、アッシュの視線はすぐに外れてしまった。こちらを見たと思ったのは気のせいか。そのことに少々落胆してルークはやっと黒板の方を向き直ると大分進んでいる板書された部分を書き写しだした。


「やっぱり格好良いよなアッシュって。モテるんだろうなあ・・・」

放課後になって授業中に聞いていなかった部分をティアに教わりながらルークがぽつりと零すとティアはあっさりとそれを認めた。

「そうね。彼は女子の間では結構人気よ。告白されることも頻繁らしいって噂を訊いたことがあるわ」

「ああぁ、やっぱ俺駄目だっ」

ルークは呻いて頭を抱える。しかしティアは自分の発言で凹んでしまっている相手に手を動かしなさいと容赦が無い。半泣きになったルークがそれでも鼻をグズつかせながら手を動かす。二人きりしかいない教室内に文字を書く音だけが響く。ルークはノートに落としていた視線をちら、と上げてティアを盗み見る。彼女は本を読んでいるので、ルークの視線には気付いていないようだ。
控えめの印象があるティアは大人びた雰囲気を醸し出していて。美人だとルークははじめて見たときからそう感じていた。
合唱部に所属し、唄を歌う彼女の声はとても透明感があって綺麗でとても人気がある。芯の強さも彼女らしさの一部で、そこがまたイイんだよと男子の中では彼女にしたい女子生徒ランキング一位なのだ。
そんな風に周囲から思われている彼女に訊きたいことがあった。

「ティアは・・・誰かと付き合おうとか思わないのか?」

「・・・・・・随分唐突な質問ね」

本から顔を上げたティアの瞳がルークを捉える。僅かに眇められている双眸に、やはり不躾な質問だったろうか、とルークは前言撤回しようとしたが、それよりも先にティアが呟やくように言った。

「私は誰とも付き合う気は無いわ」

「・・・そっか」

それきり、ティアが口を閉ざしてしまったのでルークは黙々とノートを書き続けた。





*     *     *





「・・・で、また雨降ってるし」

数日前と同じように昇降口で立ち尽くしたルークは半眼で曇天の空を見上げる。ティアはバイトだからと先に帰ってしまった。
あ〜、もう雨うぜぇとグチグチ零しつつ雨が弱くなることを祈り、校庭へ背を向けて教室に戻ることにする。手元に一本、借り物の傘があったがそれを使う気にはなれなかったのだ。
数時間前までは生徒が沢山いて騒然としていた廊下も今はガランとしていてひっそりと息を潜めたような静けさが漂っていた。
悪天候のためにいつもより薄暗い廊下を歩き進んで教室に入る。
ガラガラガラと引き戸の教室のドアを開けて、窓際の席に意外にもひとがいたことにルークは驚いて目を丸くした。

「あ、れ・・・?」

ついで、教室では見慣れない鮮やかな真紅の髪色にルークは首を傾げる。
教室にいた先客がルークのほうへゆっくりと顔を向けた。
肩からさらりと流れる綺麗な紅。深い深緑色の双眸。

「・・・アッシュ?」

「・・・そうだが、何故俺の名前を知ってる」

思わず口に出してしまい、アッシュが怪訝そうに眉をひそめた。ルークはすぐさま「や、友達から聞いたんだ」「・・・」「えっと、べっ、別に悪い噂とかそんなんじゃなくて・・・って、ごめん。何か今すげーシツレイなこといったよな俺」いらないことまで口走って情けなく眉を下げた。アッシュはひとり落ち込み始めたルークを見てくっと喉を鳴らして小さく笑った。

「お前、傘貸してやった奴だな」

「あ、うん。・・・そうだっ、傘!コレありがとうな!返すタイミングが無くてさ・・・」

パタパタとアッシュの元へ駆け寄って傘を差し出すとアッシュは意外そうに方眉を跳ね上げさせた。

「・・・これを使って帰ればいいだろう。どうして使わない?」

窓の外を示してそう訊ねてくるアッシュにルークはあやふやな笑みを浮かべた。

「なんとなく、かなあ」

俺もイマイチよくわかんねえ。そうルークが返すと、アッシュは面白い奴だなと再び笑みを見せた。
傘を受け取り、椅子を引いて立ち上がったアッシュはきょとんとするルークを手招く。素直にアッシュの後をついて教室を出たルークにアッシュがいった。

「今度は相々傘で帰るか、・・・ルーク」

「え、あれ?俺の名前なんで知って・・・」

「友達から聞いたんだよ」

「・・・・・・」

口端を持ち上げ確信犯的に笑うアッシュに、ルークは一時の間絶句して徐々に顔を紅くさせていく。
そんなルークの反応を楽しそうに見ていたアッシュとルークが付き合い始めたのはそれからだった。





















床様よりリクエストいただきました
アシュルク。お互いが一目惚れして馬鹿ップルになるまでの話し』です。
以前も似たようなリクエストを他の方から頂いたことがあったので、今回は勝手ながら現代パロ設定
として書かせていただきました。
「馬鹿ップルになるまで」とあったので、付き合いだしたところまででお話しは終わっていますが、
リクの解釈はこのような感じで大丈夫だったでしょうか…?(ドキドキ

それでは、三万打企画へリクエストしてくださって有難う御座いました!

2008.02.26

※この小説は床様のみお持ち帰り可となっています。