風が吹きぬけ白い花弁が夜空を舞う何処か幻想的な風景の中で。
「・・・・・・」
仲間たちは生還を待ち侘びていた彼の姿を見て絶句していた。
視線が集中する先にいた赤毛は居た堪れなさそうに身動ぎをする。
上から降って来る五対の視線に、ルークはとうとう耐え切れなくなって背後に控えていた半身に助けを求めるよう
に振り返った。子供特有の大きな瞳に微かに浮かんだ涙を認めて、アッシュはおもむろに口を開く。
「・・・手違いでその姿になったんだそうだ」
言いながら、仲間たちに囲まれてその中心にちょこんと居るルークを顎で示す。アッシュの声に一度は視線が外
されていたのが、再び向けられる。少々複雑そうな表情を浮かべたのが二人、面白そうにニヤついているのが二
人。そして、屈みこんで目の高さを合わせてうっとりとしているのが一人。
「可愛い・・・」
ティアがポツリと零し、ルークはむぅと頬を膨らませる。
「嬉しくない」
明後日の方向を向くその仕草がまた可愛いのだが本人は感情のままにしているだけでティアが更に頬を朱に染
めてときめいている事には気付いていないだろう。ヘソを曲げてしまったルークにガイは困った様に眉尻を下げて
笑う。
「その姿で可愛いと言われても、仕方ないだろ」
ガイのその言葉に頷いているのはアニスとジェイド。
救いの手を差し伸べてくれるのかと期待していた金髪の親友にルークは裏切られた気分になって益々不機嫌に
なっていく。
そのルークへ天然王女のナタリアが止めを刺した。
「そうですわね。子供の姿になって・・・、歳相応で丁度良いのでは?」
「・・・」
悪意無く放たれた殺傷力強の言葉がルークを撃沈させるのに時間は要らなかった。
その様子をアッシュは少々ルークを哀れに思いながら傍観していた。
実年齢の七歳という幼児の姿をしたルークと、二年前と変わらないアッシュを仲間たちはそうして帰って来た二人
を迎えたのだった。
<まぁ、別に悪くないかもね>
公爵邸に帰れば、ルークの姿を見て両親は最初の内は驚きこそはしたものの、その事実をあっさりと受け容れた。
その余りのあっさりさにルークの胸中には何とも言えない感情が渦巻く。しかしローレライとコンタクトが取れなく
なった今の状況では足掻いても無駄な訳で。周りが特に気にした風も無い様子に、ルークもむっつりとした表情
のまま七歳児である己の姿を渋々受け容れた。
***************
アッシュとルークがバチカルに戻ってきて早三日が経過した。
背が低くて不便があるものの上手く生活に対応出来るようになってきた。
何よりルークの傍には常にアッシュが居てくれて何かとフォローをしてくれていた。
その日は穏やかで日差しが柔らかく気持ちの良い天候だった。
ルークは中庭のベンチに座り、地面に届かない足をブラブラさせて日光浴を一人楽しんでいた。時折聴こえて来
る鳥たちの会話に耳を傾けゆっくりと流れていく雲を眺めていた。
その内にうつらうつらとうたた寝を始めた時、低い声音に名前を呼ばれた気がしてうっすらと瞼を持ち上げた。
ぼんやりと視界に映し出される中庭の反対側のドアから歩み寄ってくる赤い髪の―――
「・・・あ、しゅ?」
ふわり、と身体が持ち上げられる感覚。抱き上げられたルークは腕の温もりに身を寄せてそのまま意識を手放し
た。
微かに掛かる吐息を首筋に感じながら、アッシュは抱きかかえたルークを連れて部屋へ戻る。
穏やかな寝息を立てているルークの体をゆっくりとベッドへ横たわらせ自分は浅く腰を掻けた。ギシッと軋んだ音
を立てて沈むベッドの上で眠るルークを見つめ、アッシュは顔に掛かっている前髪を優しく払い除ける。幼児の寝
顔を飽きる事も無く眺めていると、ルークが不意に笑みを浮かべた。ルークの口元が小さく動く。
アッシュは顔を近づけて呟きを拾い上げた。
「・・・・しゅ、好き」
「・・・っ」
思わず赤面してしまい、それと同時に堪らなく今目の前に居る半身を愛おしく感じられた。
アッシュは淡く微笑んで、ルークの唇へキスを落とした。
「俺も好きだ、ルーク」
日が沈みかけた頃、ルークは身体に掛かる重圧感に気が付いて目を醒ました。
ぱっちりと見開いた視界に飛び込んでくるのは見慣れた自分の部屋の天井。
あれ、さっきまで庭に居たような・・・。
天井をそのまま見つめながら胸中で首を傾げる。記憶を思い返しながら、意識を夢の中へ手放す前にそう言えば
誰かに抱え上げられた感覚もあった事を思い出した。優しく自分の身体を包んでくれていたのは大好きな彼の腕
だった気がする。考えながら、ルークは何気なく首を廻らせて横を見た。
そうして隣を見て、ルークは思わず目を丸くした。
そこには寝息を立てている赤毛の姿があった。
ルークは目をぱちくりさせてアッシュの寝顔を見入っていた。
初めて見るアッシュの寝顔はとても穏やかで優しげな雰囲気をしていた。
何より眉間に皺が寄っていない。
まじまじと食い入るように見ながら、ルークはそっとアッシュの眉間へ指を這わした。
おぉ、やっぱり皺がない。
一人感激していると、這わせていた指をがしりと掴まれた。
ぎくりと身体を強張らせ慌てて指を引こうとしたがしっかりと掴まれていて無理だった。
やばいやばい怖いどうしよう・・・!!
ルークが内心で逃げ出したい衝動に駆られているのを知ってか知らずか、アッシュの赤い睫の下から翡翠の瞳
がルークの姿を映し出し不適な笑みを浮かべた。
「お、おはよう、アッシュ」
「あぁ、おはよう」
ぎこちなく笑い、言葉を掛ければアッシュは応えてくれた。
しかし表情が・・・ちょっと怖い。
口端を軽く持ち上げて笑う様は似合っているけれど今この状況でアッシュのにやり笑顔はルークにしてみれば警
戒態勢しろと警告を発しているようなものだ。だが逃げようにもアッシュの腕がルークの上にあって動ける状態で
はない。何より未だ指はアッシュに掴まれたままだ。
もう終わりだ・・・。
「俺の眉間に皺が寄っていない事がそんなに意外だったのか、ルーク」
「・・・回線繋いだのか?」
「偶々聞こえただけだ。で、どうなんだ?」
ぐいと引き寄せられてアッシュの顔が近くなる。ルークは顔近ぇ!と胸中で悲鳴を上げながら視線を天井へ逃し
必死に言い訳を並べ立てた。
「えと、意外じゃないって言えば嘘だけど、何か新鮮味のある表情だったなぁとか、始めてみたなあとか思って・・・」
最後の方の言葉は尻すぼみになって消えていく。ルークはじっと注がれる視線に耐えながらアッシュの反応を待
つ。
やっぱり怒るのかな。
一時静寂が漂った後で、アッシュがルークから顔を背けた。
「俺が無防備な表情を曝すのはお前の前だけだ」
「・・・ぇ」
ぼそりと呟かれた内容にルークがぽかんとする。アッシュは照れ隠しなのか、小さく開いたルークの口元に己の
人差し指を押し付けた。
「二度は言わないからな」
人差し指を離して今度は入れ違いのようにキスをする。
唇を離した後で、アッシュは掻き混ぜるようにルークの頭を撫でてベッドから立ち上がった。
立て続けに不意打ちを食らって呆然としている半身の姿に、笑みを零しつつ部屋を出る。
真っ赤に広がる夕焼け空を眺め、天上に近い朱色の部分がルークの髪色とそっくりだと歩きながらに思う。
空を見上げながら、アッシュはどうしようもなく愛しさが込み上げる半身に向けて小さく囁いた。
「愛してる」
自然繋がれていた回線の向こう側でベッドの上で布団に顔を押し付けて顔を赤くし
恥かしいやら嬉しいやらで悶絶していたルークは身に余るほどの幸せを一杯一杯に噛み締めていた。
「小さい身体では不便な事も多いが、アッシュが優しくしてくれるので結構良いかも」
後日、訪れてきたガイに、ルークはアッシュに抱き上げられたまま笑顔で言ったそうだ。
ゆずりは様よりリクエスト頂きました
『アッシュとうっかり実年齢の外見で戻ってきたルークの
ほのぼのか甘め』です。ED後捏造で初めてのパターン
だったので楽しく書けた気がします・・・。が、如何でした
でしょうか?(汗
お気に召して頂ければ良いのですが;;
それでは、一万打企画へのリクエスト有り難う御座いました!
03.25
※この小説はゆずりは様のみお持ち帰り可となっています。