<花火>






ずい、と目の前に突き出されているのは今の時期よくスーパーなどで見かけるそれ。


今のこの季節にやる風物ではあるが・・・。
アッシュは眉間に皺を寄せ、袋に大量に詰め込まれた花火の束に目を輝かせているルークを見た。





ルークは花火がやりたくてうずうずしているのか片手に花火の入った袋を持ち、逆の手には着火マンを持って腕
を上下に振る。
そのルークから視線を外し、アッシュは手元に視線を落とし新聞を読み始める。

「なぁ、花火やろうぜ!」

ルークは焦れた様に言いながらアッシュの手から新聞紙を引っ手繰った。アッシュは「なにしやがる」と怒鳴り新
聞紙を取り返そうとするがそれよりも早く、ルークはアッシュの座っているソファから手の届かない位置へと退避
する。2メートルほど距離を取り、ルークはビニール袋と新聞紙を両手に持ちながら眉間の皺を確実に増やして
いる同居人に「なぁ・・・花火ぃ〜」と言うも「やかましいっ!この屑!!」一喝されてしまい、むぅと頬を膨らます。

「・・・じゃぁ、いいよ。俺、ガイ誘って花火やってくるから」

ルークは押し付けるようにしてアッシュに新聞紙を返し、そのまま部屋を出て行こうとすると、おい待てと静止の
声が掛けられた。
仏頂面でアッシュを見ると彼は新聞を読みながらぼそりと

「誰も花火をやらねぇとは言って無いだろう」

「え・・・じゃぁ」

「少しくらいは付き合ってやる」

「やったー!ありがとな、アッシュ!!」

両手に持っていた物を床にどさりと落とし、勢いよくアッシュへと抱きつく。アッシュは「くっ付くな、うっとおしい!」
と言いながらルークの頭を叩くが叩かれた本人は嬉しさの絶頂に浸っているので、更にぎゅうと抱きしめる力を強
くする。

「すっげ、嬉しい。アッシュ大好き!」

「・・・・・・」

この一言でアッシュはもう勝手にしろと天井を仰ぎ見た。




















花火をやる、とは言っても今はまだ昼を過ぎたばかりで花火をやる時間帯ではない。
その事を同居人へ説明すると、相手は翡翠色の眼を真ん丸にして

「へぇ、そうなのか」

「何にも知らないで花火をやるつもりだったのか、お前は」

大体、明るい所で花火をやっても余り意味は無いだろう。その事も解らないのかこの馬鹿は。
ルークはしきりに「へぇ・・・、そうなのか。そうだったのか」と感心して頷いていたが、唐突にアッシュを見た。

「なぁアッシュは花火やったことあるのか?」

素直に浮かんだ疑問を口にするとアッシュは「ガキの頃にな」と答えた。
へぇ、意外と再び眼を丸くするルークの反応にアッシュは少し恥かしくなりぶっきらぼうに言う。

「何だ、俺が花火をした事があるのがそんなに意外か?」

「うん」

こっくりと首を縦に振るという動作までつけてルークは肯定した。身も蓋も無い返答に思わずアッシュの方が言葉
に詰まる。
暫しの沈黙が流れ何故アッシュが黙り込んだのかが解らないルークが口を開こうとした時、玄関の方から

「おーい、居るか〜?」

と言う声と共に金髪の青年が部屋へ入ってきたが、赤毛二人を見るなりぴしりと音を立てて固まる。

「・・・ガイ?」

フリーズしている青年へそっと声を掛けるとガイは震える指で二人を指す。
指された当人たちは何なんだと顔を見合わせる。
訳が解らないぞとガイを見れば、ガイはようやく再起動しだしたのか全身を使って息を吐き声を絞り出した。

「お前ら、一体何をしてたんだ・・・」

「何って・・・」

「・・・」

再び顔を見合わせ、ようやく自分たちの状態の事を思い出した。
ソファにアッシュが座り、その彼に抱きついていたルークはまるでアッシュの上に乗っている様な状態だった訳だ
から事の経緯を知らない第三者から見れば「何をしていたんだ」と訊ねたくなる筈だ。
ガイはその場にへたり込んであぁ、俺のルークがどんどん離れた場所へもう手遅れなのかとぶつぶつ呟いてい
る。

「ガイがおかしくなった・・・?」

「馬鹿は放っておけ」

金髪の青年が何を誤解して嘆いているのかを悟ったアッシュは「何時までも上に乗ってるんじゃねえ」とルーク
を乱暴の押しのける。素直に退いたルークは部屋を出て行こうとする同居人に何処に行くんだと反射的に訊ね
る。

「少し出かける。お前はガイに飯でも作ってもらっとけ」

「うん解った。いってらっしゃい」

ひらひらと手を振ってアッシュを見送り、未だに呆然としている親友の肩をトントンと叩く。虚ろな蒼い瞳がこちら
を見る。ルークはにっこり笑いながら

「ガイ、昼ご飯作ってくれないか?」

「・・・・・・」

「・・・ガイ、何泣いてんだよ」

ぐすぐすと鼻を啜りながらガイは思った。



誰かこの二人が何をしていたのかこの俺に教えてください。


































日が暮れ、空に星が瞬きだし絶好の花火日和にルークの胸は初めての花火体験にドキドキと胸が高鳴る。

―――のだが

「アッシュが帰ってこない」

家の外に出てガイに教えられたとおり、バケツに水を入れて蚊取り線香もバッチリ準備していると言うのに同居人
が帰ってこない。階段に腰を下ろし、同じクラスの少女に教わった歌を鼻歌交じりに歌っていると通りの先の角か
ら見慣れた赤毛がこちらに向かってくるのに気付く。

「アッシュ!帰ってくるの遅い!!」

折角準備万端で待ってたのにと文句を言えば「すまない」と滅多なことじゃ自分に対して謝罪を述べないアッシ
ュに謝られルークはぽかんとする。未だ文句が来ると思っていたが意外にも何も言ってこない同居人を見れば
間抜けな顔があった。

「何をそんなに驚いてる」

「え、だってアッシュが俺に謝るから。うわぁ今から雨降らなきゃいいけど」

「・・・」

至極真面目な顔をして失礼なことを言いやがる同居人の額を指で弾いた。














「なぁ、この花火はどんなヤツなんだ?」

「さぁな。花火なんてそんな大した差なんてねぇよ」

「ふぅん。そう言うものなのか?」

「そう言うものだ」

「そっか」

バチバチと音を立てて明るく色とりどりに燃える花火にルークは「わっ、色が急に変わったぞ?!」と声を上げ楽
しそうに笑う。アッシュは興味無さ気にルークに無理矢理火をつけられ持たされた花火を見つめる。様々な色に
変化し、次第に細く弱弱しくパチパチと音を立てて終には消えてしまった花火をバケツの中に突っ込む。自ら花火
に火をつけてやろうとも思わないので、隣で両手にそれぞれ種類の違うと思われる花火を持ってはしゃいでいる
自分のより若干色の違う赤毛を見る。その花火も徐々に威力が弱くなっていきパチと音を残して消えてしまった。
途端辺りが暗くなり、ルークははたとアッシュが花火を手にしていないのに気がついた。

「あれ、アッシュは花火もうやらないのか?」

「やらねぇよ」

「何で?楽しいじゃん」

話しながらごそごそと袋の中を漁って花火を探していた手を止めてルークは首を傾げる。

あのなぁ、とアッシュは息を吐いて言う。

「高校生男児は花火をやって喜んだりしねぇよ」

少なくとも自分はそうだ。他の奴がどうなのかは知らないが。

「そうなのか?俺も高校生だけど楽しんでるよ?」

「お前は別だろ」

「そうかなぁ・・・」

イマイチ腑に落ち無そうな顔をしてルークは居たが、気を取り直して再び袋の中に手を入れる。その様子を横目
で見ながらアッシュは「花火も知らないような世間知らずが普通の男子高校生と同じな訳無いだろう」と胸中でぼ
やく。ルークは花火を選んだのか着火マンを手に持つ。パチパチと小さな音が鳴り出し、アッシュは何とはなしに
ルークの手元へ眼を向ける。

「おっ、アッシュ!この種類の違う花火は何?」

「それは線香花火だ」

「線香花火か!小さくて綺麗だな」

「静かにしてないと火の玉が落ちるぞ」

「え、そうなのか?!解った・・・」

パチパチと爆ぜる音が徐々に大きくなり逸れに連れて火の玉も大きくなる。
ルークはじっと神経を集中させ食い入る様に火の玉を見つめている。
だが暫くすると火の玉はぽとりと地面に落ちてしまいルークは落胆の声を上げる。

「落ちちゃった・・・」

「そりゃ落ちるだろ」

「いや、そうだけどさぁ」

もうちょっといけそうだったのに、とルークは呟く。そんなに悔しがる事かとアッシュは思ったが、ふと良い事を思
いついた。

「ルーク」

「へ?何、アッシュ」

突然、謝罪の言葉以上に発せられる事の無い自分の名前をアッシュに呼ばれルークは若干上ずった声で答え
る。アッシュはひょいと袋から線香花火を取り、その一本をルークに渡した。渡されるまま線香花火を持っている
とアッシュは自分の線香花火を持ち、不敵な笑みを見せた。

「俺とお前、どっちがより長く火の玉を落とさずにいられるか勝負だ」

負けたら罰ゲームだぞと最後に付け足す。

ルークは数回眼を瞬き、それから「おぅ!やってやる!!」と乗り気で線香花火に火をつける。続いてアッシュの
にも。








静かに時が流れて行く中で花火の爆ぜる音が辺りに響く。


















アッシュはふっと小さく笑い

「・・・俺の勝ちだな」

「あぁ・・・負けたぁ〜」

がくりと肩を落として本気で悔しがっているルークにアッシュは罰ゲームの内容を宣告する。



その罰ゲームの内容にルークが愕然とした表情で固まる。













『夏休みの宿題を全て自力で終わらせる』

何時もアッシュやガイに手伝ってもらわないと宿題を終わらせることが出来なかったルークにとって、これは死刑
宣告並みの内容だった。



















―――後日ガイが赤毛二人の家を訪ねると今度はルークが床に額を擦り付けて土下座している姿を見たとか。





















後書き
キリリク100を踏んでくださった方へ!
「アシュルクほのぼの」小説です。
ほ、ほのぼのになっているのか微妙な所でもありますが
頑張って書かせていただきました!
季節に合わせて花火を出してみたり、と言うかパラレルで
書いてしまい、ご希望に添えていなかったら申し訳ありま
せん;;

この小説はキリリクを踏まれた方のみこんなヘボ小説でよ
ければお持ち帰りどうぞ!

リクエスト有り難うございました!!