<one more Chance!―Mission 6>





ヴァンの制止を振り切って辿り着いたコーラル城。

ルークは迷うことなく城の中へ踏み込んでいった。その後姿を眺めながらゼロスはガイへ耳打ちする。

「ルークってここに来るのは・・・?」

「・・・記憶を失くす前に攫われて発見されたのはここだったけどな」

実際来るのははじめての筈だ。
ゼロスの呟きにガイは固い声音で応じた。その二人の会話はきっと話題にされている当人の耳にも届いているだろうに、意図的に無視しているのか振り返らずにひたすら奥を目指して歩き続けていた。
階段を下りてさらに進んでいくと、ちらりとライガの後姿を発見した。途端、ルークが走り出す。
海に面した通路をぬけて長く上へと続いている階段を駆け上がっていき、屋上にルークが飛び出した瞬間。赤毛の姿が掻き消えた。驚いたガイがルークの名を叫んで慌てて屋上に出ると、地面へ大きな影が落ちた。ハッと振り仰げば、そこには魔物の鍵爪に捕らえられたルークの姿があった。思わずそちらに気をとられていると、アニスの悲鳴と魔物の咆哮が鼓膜を叩く。次から次に何なんだとゼロスが悲鳴の上がった方へ視線を向けるとルークと同じように捕まったイオンが見えた。

「こんの根暗ッタ!イオン様とルーク様を返しなさいよっ!!!」

「駄目!アニスがアリエッタからイオンさま取ったんだもん!絶対返さないから・・・!」

それにアリエッタは根暗ッタじゃないもん!
いきりたつアニスにそう叫び返したアリエッタが腕に抱えていたぬいぐるみを頭上に掲げて詠唱をはじめた。咄嗟に戦闘態勢に入りながら、ゼロスは視界の端でルークを掴んでいる魔物を確認する。ガイもルークが気になるのか襲いくる魔物よりも頭上ばかりを見ていた。
だが強烈なアリエッタの譜術と魔物二体による攻撃に囚われている二人を助け出す隙がない。ゼロスは苛立たしげに舌打ちをして飛び掛ってきた魔物の腹を剣で斬りつけた。その時、焦ったようなガイの声がまたルークを呼んだ。釣られるようにゼロスもルークの方へ顔を向けてぎょっとした。今まで屋上の上空を旋回していた魔物が突然急降下をしてその場から飛び去ってしまったのだ。
遠くへ行かれては追いかけられない。ゼロスは戦闘をそっちのけにして階段の方へ走り出す。しかしそれを阻むかのように魔物が立ち塞がった。急ブレーキを掛けたゼロスは「あ〜ぁもうめんどくせーなっ」詠唱をはじめる。
そして、強力な魔法が魔物へと直撃する。甲高い絶叫にも似た咆哮を残し、魔物が地へと倒れ付す。
それを確認するよりも先にゼロスはさっさと階段を降りはじめた。

ガイは階下へ消えていく朱髪を目端に捉え、ぐっと唇を噛み締めた。彼の後ろでは妨害者が減って比較的有利となった後衛組みのジェイドが詠唱をしている。その時間稼ぎの為に自分は目の前にいる魔物の気を引き付けなくてはならない。アリエッタはアニスが相手をしている。イオンは先程奪還することは出来た。残るはルークだ。
居合いの形で剣を抜き放ち斬檄で相手へダメージを与えながら、まだなのかジェイド!とガイは焦燥に顔を歪めた。
こんな魔物を相手にしているより、ルークの安否が気になる。

「ガイ、いきますよっ!」

「・・・っ!」

突然掛けられた声に、ガイは反射でその場から飛び退いた。同時に魔物へと直撃する譜術。
どうっ、と音を立てて倒れた魔物はそのまま動かなくなった。
ガイはぱっと踵を返してゼロスと同じように階段へ向かおうとしたが、ジェイドに呼び止められてしまった。

「アリエッタがまだ残っています」

「くそっ」

隠し切れない苛立ちに悪態もそのまま唇から零れてしまう。ジェイドはそんなガイの様子に気付いていても、あえて無視をしているのか再び詠唱に入った。





*     *     *





頭に響く鈍痛に呻いてルークはそっと瞼を持ち上げた。
視界に映るのはあまり見覚えのない天井。隣からは聞き慣れない音がする。
のろのろと首をそちらへ傾けると、そこには妙な服を着た死神ディストがいた。そこでようやく自分が今どのような状況下にいるのかを把握した。
情報を調べることに没頭しているディストへやや呆れたような声が掛かった。仮面をつけた緑髪の少年がディストの後ろで腕を組んで立っている。

「ちょっと、はやくしてくれない?いい加減待ちくたびれたんだけど」

「もう少しで終わります。そう急かさないでください」

タン、と最後にキーを一つ押してディストが椅子を回してぼんやりとしているルークを見た。大人しいルークにやや以外だったのか、ディストは眼鏡の縁を指で押し上げて

「大人しいですね。まぁ、その方がやりやすかったので良いんですが。さて、それでは私は行きますよ。アッシュに頼まれていたフォンスロットも開いたことですしね」

「あっそ、それじゃあボクも―――」


「そうはさせないぜ」

第三者の声が響くと同時に少年がとんぼ返りをして飛び込んできたゼロスの剣を避けた。ルークはぼんやりとゼロスへ視線を流す。ゼロスにしては珍しく肩で息をしている。その様子から察するに、滅多にしない全速力でここまで来てくれたのかもしれない。ルークはそう考えてゼロスに申し訳ない気持ちになってしまった。あと、この分だとガイにも心配掛けただろうな。

「何でルークを攫ったかは知らないけど、とりあえず返してもらうぜ?」

「あぁ、どうぞお好きに。もう用は済みましたから」

「は?」

あっさりとルークを返すといわれてしまい、ポカンとするゼロスだが。ディストはさっさと去ってしまいその場には緑髪の少年が残っていた。

「・・・・・・」

「シンク?」

静かなる怒りに満ちている感がする少年にルークは上体を起こしてそっと声を掛けた。するとシンクがルークの方を見た。恐らく仮面の下の双眸は驚きに見開かれているのだろう。

「アンタ、ボクの名前知ってるんだ。へぇ・・・」

「そりゃ、・・・一応」

「まあそんなことはどうでもいいんだけどね。ボクも用事は無いからさっさと退散させてもらうよ」

シンクは言い残すと身軽に階段の上へ飛び乗るとそのまま行ってしまった。
そんなことで良いのか六神将。ルークも唖然とした表情で未だに呆然としているゼロスを顔を見合わせた。ゼロスはルークの翡翠色と視線が交わるとようやく彼の傍に寄って来た。ルークの額に掛かった朱髪を掻き揚げて具合はどうだと訊ねてくる。ルークはふる、と首を横に振って平気だと笑って見せた。
そこでゼロスもいつもの調子に戻ってきたのか、常のへらりとした笑みを浮かべてルークの髪をくしゃりと撫でた。




「ルーク!無事だったか!」

「あ、ガイ・・・」

バタバタと慌しく駆け寄ってきたガイはルークの無事な姿を確認して安堵の息をついた。
そんな彼にルークは情けなく眉尻を下げる。

「ガイ、ごめん・・・俺」

「無事だったんなら良かったよ」

ガイは微笑んで先程のゼロスと同じようにルークの頭を撫でる。と、あとからやってきたジェイドがそれでは軍港へ戻りましょうかと言い出すので、ルークはアリエッタはどうしたのだと訊くと

「屋上に放置してあります」

「なっ・・・!!!」

さらりとした発言に絶句したルークは立ち上がるなり屋上の方へ走り出す。イオンの咎めるような視線を流していたジェイドはふぅと嘆息し、肩を竦めた。既にルークを追ってガイとゼロスもこの場からいなくなっている。

「それでは、追いかけますか」

ジェイドはそういうとのんびり歩き出した。




















前回の更新が12月だったことに動揺が隠せません。
鈍足更新ですみませんっ;;(土下座

next→

200802.26

※この長編は疾風丸様のみお持ち帰り可となっています。