<one more Chance!―Mission 7>





屋上まで駆け上がったルークは横たわっているアリエッタの傍まで行くと、そっと膝を折って彼女の額に手を当てた。頬にいくつか裂傷の痕があり、身体中いたるところには傷があった。それを痛ましげな目で見ていたルークは追いついてきたティアを振り返って、少女に治癒術を施すように頼んだ。しかし、ティアはアリエッタが敵である為にそれは出来ないと拒否する。どれだけ食い下がっても頑として譲らないティアにルークはもう一度気絶したまま動かない少女を見つめた。
自分に治癒術が使えればよかったのに。己の無力感にルークが唇を噛み締めていると、すっと傍に寄ってきたゼロスがルークの朱髪に手を置いて片目を瞑ってみせてきた。ゼロスは意識を集中させるように目を閉じて、アリエッタへ手を翳す。すると少女の身体が淡い光に包まれる。しばらくして光が消えると、アリエッタの外傷が消えていた。ルークは小さく笑って、ゼロスに礼をいいそれを茶化して受け取ったゼロスが先に立ち上がった。
背後に控えていた同行者を省みると、数人が非難めいた目をしていた。ルークは困ったように眉尻を下げる。

「いや、やっぱり怪我人は放って置けねーだろ」

「ですが、彼女は敵ですよ?」

「そうだけど・・・」

「―――アリエッタは俺が預かる」

「・・・?!アッシュ!」

突然割り込むようにして響いてきた声に、ルークは驚いて周囲を見回すが声の持ち主はどこにも見当たらない。あれ、幻聴?とルークが小首を傾げていると頭上で大きな羽ばたきが聞こえてきた。上を振り仰げば、魔物にぶら下がった赤毛の姿あった。あぁ、上にいたのか。
アッシュは屋上に降り立つと、アリエッタの身体を抱き上げた。

「もうすぐヴァンが来るだろう」

「・・・・・・」

「またすぐに逢える」

「うん」

ルークが小さく頷くのを確認すると、アッシュは魔物の背にアリエッタを乗せて飛び去っていった。



小さくなってゆく影をじっと見つめるルークに、同行してるものたちが徐々に不信感を顕にするようになった。

コーラル城をあとにして道中歩いていると、同行者の思惑を薄々感じているらしいルークはみんなから少し離れて後ろを歩く。
その様子が気になるのかガイがちらちらとルークの方を頻繁に振り返る。
本当ならルークの隣に立ちたいのだろうが、そこにはゼロスが控えてまるで牽制するようなオーラを発しているのでガイは困惑して近付けずにいた。
飄々とした風でいるのにまとう気配にピリピリした空気を混ぜて近寄るなとあからさまに他者を拒絶しているくせにルークの隣を歩くゼロスにルークも困ったように上目遣いで相手を見る。

「ゼロス…怒ってるのかよ」

「なぁにがー?別に俺さま怒ってないぜ?」

「いってることと空気とが真逆なんだけど」

「たまにはそんなこともあるって」

「……」

「お…」

ゼロスの適当な返答にはふぅとルークが思わずため息を零していると、意を決したらしいガイがくるりと踵を返して後方にいたゼロスとルークの元へ来た。
そのガイの表情は常にない無表情に近い顔をしていてルークは不安が込み上げてぐっと唇を噛み締める。ゼロスはルークに寄り添うように立ってガイを見ている。
不安と警戒の色をそれぞれに浮かべている二対の視線を真正面から受け止めていたガイはふっと呼気を漏らすと眉尻を下げた。

「俺は信用できないか?」

どことなく寂しげに紡がれた言葉にルークは無意識に声とも吐息ともつかない音を唇から落した。
次いでハッとして首を千切れんばかりに横へ振って口を何度もぱくつかせ、出てこない言葉にもどかしくなる。
違うっ!このたった一言がいいたいだけのに。胸に沢山の想いが詰まって出てこない。
言葉の代わりとでもいうように、ルークの視界がじわりと滲んで目頭が熱くなった。
信用したい。みんなを信用したい。俺のことを信じてくれてるって信用したい。
でも隠し事を抱えている自分を出会ったばかりのみんながすぐに信用してくれるはずが無い。
分かってはいたけれど、心のどこかでは哀しくて。
だからガイの言葉が嬉しかった。
ガイはルークのことを信じてくれているから、こうして言葉をかけてきてくれたのだろう。寂しげに悲しそうな顔をしたガイにルークは耐え切れなくなって腕を目元へ押し付けた。
じわじわと溢れてくる涙が素肌に触れて水の感触がする。震える唇を必死に噛み締めて戸惑ったようにルークの名を呼んでくるガイの声にまた涙が溢れ出す。
脇ではゼロスが「あ〜ぁ、ルークくんのこと泣かした」「お、俺が悪いのか…!」「他に誰がいるんだよ」「う、…悪い、ルーク別に泣かせるつもりだったわけじゃあ…」「ガイさいてー」途方に暮れるガイに止めを刺すような台詞を吐く。
ごしごしと目を強引に拭って視界を開ければ肩を落した金髪が視界に映る。
ルークは赤くなった目を細めて笑った。



「さんきゅ、ガイ」



*    *     *



コーラル城からカイツールへ戻り修理をされた船に乗って一時の休息を取る。
ルークは海にはしゃいで鳴き喚くミュウをぞんざいな扱いで手に持って甲板へ出た。
強く吹き付けてくる塩の香を含んだ海風に目を眇め嬲られる髪を空いている手でおさえる。ひと気のない甲板にルークは歩を進め、はたとなにか重要なことを忘れていたことに気付いた。
確かこの時ってローレライからの干渉が…

「…っ?!」

キィンと脳内に響く甲高い音と慣れた頭痛。しかし酷い頭痛にルークは呻いてその場に蹲る。反射的に掴んでいたミュウを放して両手で頭を押さえ、自身の体を無理矢理に操ろうとしてくる力に必死に抵抗する。
ヴァンが出てくる前にローレライを跳ね除けることが出来たルークは荒々しく息をつく。がんがんと鳴り響く頭痛のせいで周囲の音がうまく拾えない。甲高いミュウの鳴き声は聞こえる。それとばたばたという足音。
ただそれが誰のものかを判断する前にルークの意識はふつりと途切れてしまった。



ひとりでふらりと部屋を出て行った赤毛を気にかけつつも追いかけて行かなかった数分前の己を呪いたい気持ちでガイは白い顔をして目を閉じているルークを見ていた。
そのガイの後ろではゼロスがミュウをかまっているという一種珍しい光景があったが見ている者はいない。ルークが倒れたことを心配したティアやとりあえず気になるらしいアニスをゼロスが部屋から追い出す形で払ったのだ。

甲板に出て行ったルークに付いて行った(連れて行かれた?)ミュウの異常な鳴き声にガイとゼロスがすぐさま反応して部屋を飛び出ると倒れこんだルークの姿があったのだ。
沈痛な面持ちをしてルークを見つめるガイに、ゼロスは彼の真後ろに立つと意識をこちらに向けてきた碧眼と視線が合ったゼロスは意地悪そうに口端を持ち上げた。

「まだルークを泣かせたこと気にしてんのかー?」

「そりゃ、俺が原因だったんだから気にするさ」

苦笑交じりに返してくるガイにゼロスはガイの座っている隣の椅子を引いて己も腰掛ける。おや、という顔を見せたガイにゼロスは彼の額にトン、と人差し指を置く。

「ずっとルークを見てきたんだろ。俺さまもルークくんとはそれなりに長かったと思うけど、アンタはそれ以上長く」

「……、あぁ」

「じゃあ、離すなよ。ずっと掴んできてたんだろ?ルークを離すなよ」

俺に取られて悔しいんだろ?
ゼロスの台詞にガイは一瞬だけ意表を突かれたのかきょとんとした顔をした。が、すぐに苦笑へと戻し金髪を掻き混ぜた。
否定もしないが肯定もしないその相手に、ゼロスは楽しそうにさらに笑みを深いものにした。




















約一年間ストップしていたという…orz
すみません御礼小説のはずなのにorzorz


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2009.03.25

※この長編は疾風丸様のみお持ち帰り可となっています。