<そりゃ君が好きだから>
あぁ、今日のルークもまた可愛いなあ、と俺は頬を緩ませて目の前の赤毛を眺めていた。
むすっと頬を膨らませている仕草が可愛くて堪らない。
こうしてたまに顔を合わすたびにルークは最初ははっと思いつめたような顔してから、いつものわがまま坊ちゃまの顔になる。
それは俺が六神将に加わってから見せるようになったルークの表情パターンだった。
本当ならさっさと攫ってどこかひとに見つからないところでルークと暮らすのもありだよなと考えていた。
だけどルークはそれを望まなかった。だから俺は大人しく引き下がった。
今はこうしてルークの顔を見れるだけで十分だしな。
くしゃりと赤毛を掻き混ぜるように頭を撫でればうぜえといって俺の手を払うルークがいとおしい。
ルークの一挙一動何もかもがいとおしかった。
いとおしいと思うと同時に、俺の奥底でどくりと憎悪の炎が燻りを大きくする。
シンクに施されたカースロットが服の下で疼くように脈打っている。
愛情と憎悪は紙一重とはよくいったものだ。
ルークをいとおしくて堪らないというのに、そのルークに連なるファブレの血筋が憎いのだ。
目の前にある赤は、俺にとって凄惨で壮絶な記憶を呼び起こす色だ。血の色だ。
しかしそれさえもが今はいとおしく想えてしまう。
手を止めた俺に、ルークが不思議そうな視線を投げてくる。
俺はルークのどこまでも透き通ったみどりいろの瞳が好きだった。俺には到底真似できないような純真な瞳が羨ましくて、好きだった。
きっとルークはわからないだろう知らないだろう。
俺がどれだけお前に想い焦がれているのかを。お前という存在にどれだけ縋っているのかを。
六神将としてヴァンの配下に下っても、俺は全てのことについてヴァンと志を共にしたわけでなかった。
手駒としてルークを利用しようとしたヴァンのやり方には納得いかなかったしな。
どうにかしてヴァンの企みを潰そうとしたけれど、間に合わずにルークには辛い思いをさせてしまった。
短く切られたルークの髪がちょっとだけ哀しい。俺はあの綺麗なグラデーションのルークの髪色が好きだった。いや、いまのひょこひょこした髪型も可愛らしさが増して良いんだけどな。
ふっと笑みを零して俺がルークの前髪をそっと払いのけると、ルークが擽ったそうに眼を眇めて俺の名前を呼ぶ。
最近耳にしていたアッシュの声とは違って、若干高めの声音は俺の鼓膜に柔らかく心地よく響く。
同じつくりをしているはずなのに、どこまでも似ていないこのふたりの赤毛は俺にとって大切な存在だ。
お前たちは俺のことをどう想っているんだろうな。ただのウザいヤツとでも想っているのだろうか。
まあ、それでも良いんだけどな。
なあ、ルーク。
俺がファブレの屋敷に復讐を果たそうと乗り込んでいったら、お前はどうするんだろうな。
全力で俺を止めにかかるか?俺を殺さずに、思い留まらせようとするのか?
なあルーク、俺はお前には剣を向けられない。何故なら俺はお前がいとおしいからだ。
お前が屋敷を血濡れに染め上げようとする俺を止めようと剣を向けてきたら、俺はそれを甘んじて受けよう。俺はお前には剣を向けられないからな。手にしたその切っ先で俺の心臓を突き刺せば良い。ルークの手によって死ねるのなら別にそれで構わない。
剣で俺を貫いてその心に俺を刻み付けてくれよな。
ずっとずっと忘れないように。刻み付けてくれ。
実際にそんなことをいえば、勝手なこというな、とお前は怒るだろうな。手に取るように怒った時の表情が思い浮かぶよ。
でもな、ルーク。
俺の決意は変わらないんだ。ごめんな。すまない。
俺はお前がいとおしい。
だからこそ、勝手にお前の元を離れた俺を憎んで突き放してくれ。
「ガイ?」
「・・・そんな顔されたら、俺の決意が揺らぎそうなんだ」
その無邪気な笑顔に吸い込まれそうになる。可愛らしい頬に唇を寄せたくなるんだ。
俺にはお前の笑顔を受け取る資格は無いんだから。
頼むから、俺の前で笑顔を見せないで欲しい。
赤毛が好きすぎて変態チックな六ガイver.
2008/09/04 サイト再掲