<forget-me-not11>





ぎゅっと唇を噛み締めて紫の瞳を見返す。

若干暗めの印象があるその紫が冷たく光った。

「それがお前の本心か」

「・・・っ」

何もかもを見透かしたような声音でそう告げられれば、言葉に詰まってしまう。

駄目だ。動揺しちゃいけない。

ルークは少し深く息を吸い、吐息と共に言葉も吐き出した。

「そう、だ。それが俺の本心だ」

「・・・まぁいい。宿はこの道を真っ直ぐ言ったところにあるのは、解ってるな」

「はい。それでは、失礼します」

男性はルークから興味が失せたのか目の前に立つジェイドに眼を向けた。

ジェイドは優雅ともいえる動作で頭を下げ、家に背を向ける。

「さあ皆さん宿へ向かいましょう」

何処か場違いな気がしないでもない明るめのトーンでジェイドは言った。







宿へ向かう途中の道すがらで、アニスがふと道端に駆け寄ってしゃがみ込んだの気が付いたルークは、上から
覗き込む形で彼女に声を掛けた。頭上に影が落ちたので気が付いたのかアニスは顔を上げて「何だ、ルークか。
驚かせないでよ〜」「悪い悪い。何見てるんだ?」ルークと確認して僅かに体をずらして自分が見ていたものがル
ークにも見えるようにする。

「・・・花?」

「うん。前にイオン様が好きだって言っていた花に似てるなぁ〜と思って」

「へぇ・・・」


道端の所々に置かれた小さな花壇に咲く綺麗な白い花。

風に揺られて時折花弁が空を舞う。

それを見上げながらアニスがポツリと

「ねぇルーク。花言葉って知ってる?」

「え、花言葉?知らない。何だ、それ?」

ルークが首を傾げると、アニスはふふふと得意そうに笑う。立ち上がってずいとルークに顔を近づけて人差し指を
立てる。

「それぞれの花に象徴的な意味をもたせたもの。それが俗に言う花言葉。花言葉以外にも色んな物には意味が
込められていたりするんだよ」

「へ〜・・・。知らなかった」

「ガイに教えてもらわなかったの?」

「いや、全然」

きっぱり首を横に振るとアニスはおかしそうに笑う。

「ガイってばルークに変なことばかり教えてるのに、花言葉とか、そういった事は教えないんだ」

「・・・変なことって何だよ」

「女の人を落とすあま〜い言葉、とか」

「んなっ?!そ、そんなもん教えてもらってねーよ!!」

「あれ?そうなの。てっきり教わってるのかと・・・」

「おいおいアニス。誤解を招くようなことを大声で言わないでくれないか」

可愛らしく小首傾げて、ついでにてへと舌を出すアニスに、苦笑いしながらガイが立ち止まっていたルークとアニ
スの元に来る。

「何を見ていたんだ?」

「これ」

赤毛とツインテールが同時に指差すものを見て、あぁ花ねとガイは呟いた。

「そーいえば」

「ん?如何したアニス」

「私この花の名前、知らないんだよねぇ。ガイは知ってる?」

アニスが訊くとガイは唸り声を上げて暫し花を見ていたが、やがて緩く首を横に振り知らないと言った。ちらりと
アニスから目線を送られたルークもやはりガイと同じ様に首を振る。
なぁんだ、残念。そう漏らすアニスに困ったようにルークとガイは顔を見合す。
そこへ



「それは”勿忘草”だ」



「へ?」

声がした方を三人で見れば、そこには赤毛の青年が立っていた。
ぽかんとしているアニスにアッシュは舌打ちしてもう一度花の名を言った。

「”勿忘草”だ。憶えろ」

「勿忘草・・・」

勿忘草、アニスは口の中でもう一度復唱する。そして仏頂面のアッシュに向けて笑いかけた。

「有り難うアッシュ、教えてくれて」

「・・・・・・・」

少女の言葉には応えず、アッシュはさっさと行ってしまった。遠ざかる赤毛を見送りながら、唖然としたままルークは

「何か、アッシュって変わった・・・?」

「そうだな・・・。変わったかもな」

同じ様に唖然としているガイと意味の無い言葉を交わしていた。

「あ・・・。花言葉も教えてもらえばよかった」

アニスがそう呟くまでの間、二人はアッシュの意外な言葉に驚き、突っ立って居たままだった。












「・・・で。またアッシュと同じ部屋、かぁ」

戸口の前に立って苦笑いながらルークはぼやく。
俺としては嬉しいんだけど、アッシュの眉間に皺の寄った顔を見たら余り喜べない・・・。
はぁ、と吐息を零しながらベッドまで足を運ぶ。どさりとベッドへ腰掛けながら、ルークは天井を見上げた。



部屋の割り振りは以前と同じ様に。ジェイドが爽やかに告げている最中アッシュのこめかみが引きつっていたの
を思い出す。
アッシュの言動が良く解らなくなってきた。ルークはここ数日の彼の様子にそう結論付ける。
目を合わせたら凄い速さで顔をそらされるし、花の名前をアニスに教えたり・・・。
前までの彼だったらこんな事しないのではないか。

「皆の影響受けてアッシュも変わってきたのかなぁ〜」

だったら俺の事も好きになってくれたりしないかな・・・。

ガチャリ。

ドアノブが回される音が室内に響き、ルークは思考を中断する。



そして、目の前に立つ燃え上がるような赤にゆっくり笑いかけた。




















また同じ展開になりかけてる・・・;;
そしてタイトル名を出してみた。
しかもアッシュに言わせて見ました。
花の名前を言うアッシュ・・・に、似合わないぃ〜
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