<forget-me-not12>





笑いかけてくるルークを見事なまでに無視をして、アッシュはもう一つのベッドに向かう。しかしその途中でルーク
に服を掴まれて、歩を止めざるをえなくなり苛立ち紛れに振り返る。普段そうしているように、文句を言ってやろう
と口を開いたが



そこで思わず言葉を失ってしまった。



ルークは透明な雫を頬に流しながら、それでも懸命に笑顔を作っていた。
笑顔のまま、ルークは努めて明るく言う。その姿が、何故かアッシュには痛々しく感じられた。

「なぁアッシュ。明日、少しこの街の中歩いてみないか?」

「・・・何故俺が・・・お前なんかと・・・」

ルークの様子に動揺し、たったこれだけの言葉をやっとの思いで音に出す。だがアッシュの言葉を訊いた途端に
ルークの笑顔は見る見るうちに崩れていった。ぎゅっと掴んでいる服を引き千切らんばかりに握り締めながら、
顔を伏せてしまう。

「あ・・・しゅは・・・・・・俺を・・・・・」

搾り出すようなか細い声が、アッシュの鼓膜に響く。

ぱた。ぱた、ぱたた。

水滴が絨毯の上に落ちて染みを幾つも作る。
途切れることなく、断続的に雫が落ちていくのをアッシュは無表情に見下ろしていた。

「答えてくれよ・・・!」

まるで縋り付いて来るみたいに両手でアッシュの服を掴んでルークは悲痛な声で叫ぶ。
涙で濡れて頬をに髪の毛が張り付いているのを払おうともせずに、必死に答えを求めて自分の被験者を見る。
半ば揺さぶるようにしてもアッシュは微動だにしない。ルークの声に答える事も無い。
それが益々ルークを追い詰めていく。
ズルズルと目の前に立つ彼の服から手を離し、くしゃくしゃになった顔をルークは隠すように両手で覆った。

「俺は、俺はアッシュが好きなんだ。他の誰でもない、アッシュを。昼間はあんなこと言ったけど、全部嘘なんだ。
本当はアッシュの傍に・・・傍に居たくて仕方ないんだ。だって俺は、アッシュが好きだから」

ひたすらに自分の想いを言葉にして吐き出す。

知って欲しくて。
勝手な事だって解っているけど、どうしても伝えたくて。
自分の存在を『ルーク』として認めて貰いたくて。

つい先程の決心なんてあっと言う間に崩れていく。

だって彼を目の前にしていて好きだという気持ちは抑えられないから。

お願いだから。お願いだから否定しないで・・・!





しゃくり混じりのルークの嗚咽が室内に響く。

その中で、漸く彼が、閉ざしていた口を開いた。





「           」





お前の存在なんて認めたくなかった。

けれど。

タタル渓谷から帰った時にレプリカの口から訊いた言葉で、俺は内心動揺していた。


『二人で帰りたい』と願っていた。

『俺が好きだ』と言う。


グランコクマで皇帝がレプリカに抱きついた時は、何故か無性に腹が立って仕方が無かった。
だからその苛立ちをぶつける様にして怒鳴った。

その後になって自分が抱いた感情に自分自身で戸惑っていた。




そして決定的だったのが、宿屋でのこと。


安らかな顔をして寝ているレプリカが、自分でも解らない感情に流されて。

キスをしてしまいそうになった。



今になって、やっとあの時抱いた感情が「愛しい」と言う感情なのだと気が付いた。

この街に着いて、導師守護役の娘とレプリカが二人で話しているのが気になって。
花の名前を知らないかと話しているのが聞えて来て、口を出す口実が出来たと話しに割り込んでいった。
レプリカと口を訊く事はなかったが、それでも良いかと思えた。
少しだけでもアイツに近づけたから。

そして今目の前で涙を流す姿を見て。













俺は漸く自分の気持ちに気がついた。















さぁ、この想いを音に乗せて、伝えてやろう。





















徐々に自分の気持ちに気付いていたアッシュと言うことで(殴
アッシュの胸中はルークへの想いで一杯だったんですよ本当は!
アニスとルークのシーンは後からのちょっとした付け足しなんです実は(ぇ

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