<forget-me-not14>
目を見開いて固まっているルークから離れる時に、アッシュは目尻に残っていたルークの涙を舌で掬い取ってや
った。「うひゃあ」感触がくすぐったかったのか驚いたのか(恐らく後者だろう)、ルークは変な声を上げて後ろへと
ひっくり返った。舐められた箇所に触れながら、ルークは仰向けに倒れたまま目を丸くしている。しきりに擦ってい
るのは感触を拭い去りたいからなのか。アッシュは仰向けになっているルークの上に覆いかぶさった。
「・・・俺がお前を好きだというのが、そんなにも可笑しいか?」
「ううん、可笑しくない」
アッシュの下でルークは首を小さく振る。そして若干困惑した顔で
「なぁ、上から退かない?」
「・・・如何してだ」
「いや・・・何か恥かしいから」
顔を逸らしてぼそぼそと言うルークに、アッシュはにやりと笑う。
「別に恥かしがることはないだろう。俺とお前の仲だ」
「どんな仲だよ・・」
「お前は俺が好きなんだろう」
「・・・好きだよ」
「俺もお前が、ルークが好きだ」
「・・・」
「だったら決まっている」
「・・・何に?」
未だに解らないのかルークは首を傾げている。そんなルークにアッシュは一瞬だけ絶句し「どれだけアホなんだ
コイツは」「アホって言うなよ」ルークの耳元で囁いた。
「 」
途端、ルークは顔を朱に染める。
「こ、こい・・びと・・・・」
自分でも音に出してみて、その後でうわぁと声を上げる。
当然のように言い切ったアッシュが凄い。俺もアッシュみたいに潔く宣言できれば良いのに・・・。
「何を考えている」
「え・・・。いや。アッシュがカッコイイなぁ、とか・・・」
後の方になるにつれて尻すぼみになっていくルークの声。だが、直ぐにルークは意を決したような顔をして
「うん。俺たちは恋人同士なんだ」
はっきりとした口調で断言した。そして自分の上にいるアッシュの首へと腕を回し、上半身を僅かに持ち上げてキ
スをした。ルーク自身からキスをするのは初めてで、アッシュの反応はどうかとドキドキしながら唇を離す。アッシ
ュは突然のルークからのキスに驚いていたようだったが、ポスリと枕に落ちたルークの頭を引き寄せて今度は
アッシュからキスをする。
何度も交わされる甘い行為。
それは回数を重ねるごとに次第に深いものへとなっていく。
覆いかぶさった紅が朱と混じり合いながら白いシーツの上に散らばる。
唇と同じようにして重ね合わせられた手は指を絡ませながら互いの存在を確かめ合うかのように結ばれていた。
「・・・朝だ朝ぁ。あーねむぃ〜」
「良いからさっさと仕度しろ」
翌日。ほぼ同時に目を醒ました二人は他愛の無い言葉を交し合う。
カーテンを開けながら、ふとアッシュは花瓶に挿されていた花に気が付き手を伸ばす。
その花は先日ルークとアニスが見ていた白い花―勿忘草と同じもの。
但し部屋にあったのは白色の勿忘草ではなく、青色の勿忘草。
花言葉を思い起こして、アッシュはルークの方へ振り返る。振り返った先ではルークが寝ぼけ眼のまま、笑いか
けてきた。
「おはよう、アッシュ」
陽光に照らされて、眩しくも見えるその笑顔にアッシュは僅かに目を細めながらルークへ近づく。額にキスを落と
し、手にしていた青い花をルークの朱の髪に添えながらアッシュもかすかに微笑んだ。
髪に手をやって小首傾げる愛しい半身に
「おはようルーク」
優しく告げた朝の挨拶。
室内で赤毛二人がそんなやり取りをしている、扉の向こう側で
「おや・・・。あの二人は結局両想いのようですね、ガイ」
「・・・・・・ルーク」
「まぁまぁ。貴方にも何時か春が訪れますよ。それまでの辛抱です」
「相変らず楽しそうだな、アンタは」
「えぇ、楽しいですよ。あ、私なんて恋人に如何ですか?もれなくピオニー陛下も恋敵役として付いて来ますが」
「謹んで遠慮しておくよ」
ドアを挟む形で肩を落とし項垂れるガイと、それを見て楽しそうに笑うジェイドの姿があった。
少しはラブラブになれただろうか・・・。
此処で終われば良いのに敢えて終わらせません。
もう少しお話が続きます。
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