<forget-me-not2>
ティアは頬を滑り落ちる涙を拭おうとせず、まるで幻を見ているようだという
顔をして立ち尽くしていた。
ルークはそんな彼女の反応に僅かに苦笑しながら
「なんだよ、人がただいまって言ってるのに反応無しかよ・・・」
「ほん・・・とうに・・ルーク、なの?」
ティアが蚊の鳴くような声で問いかけてきた。
ルークはティアの元に歩み寄り、若干自分より背の低い彼女の耳元に唇を近づ
囁いた。
「俺は俺だよ。他に誰が居るって言うんだよ」
「・・・っ!!ルーク!貴方、私達が今までずっとどういう気持ちで待ち続け
たと思ってるの?!三年間よ!!どれだけ・・・・どれだけ・・」
ぽろぽろと涙を流しながら話すティア。
耐え切れなくなったように顔を伏せてしまったティアにルークは躊躇いがちに
彼女の頬へと手を伸ばした。
白い肌を伝う涙を指ですくいながら、ルークは「ごめん」と呟いた。
ティアはルークの手を取り、小さく首を横に振った。
涙で濡れた瞳で、しっかりと青年を映しながらティアは言った。
「貴方はこうして約束を守ってくれた。それなのに、私は貴方を攻めるよう
なことを言って・・・。こっちの方こそ、ごめんなさい」
「ティア・・・」
ティアは涙の跡の残る顔に花が咲くような笑顔を作った。
「お帰りなさい。ルーク」
「・・・・・・・・・。ただいま」
「ルーク?!ルークなの!!今まで何してたのっ?!」
少し離れたところから駆け寄ってきたアニスがルークの胸倉に飛びつき、ガクガ
クと揺らしながら甲高い声で叫ぶ。
アニスに続いてナタリア、ガイがルークを取り囲む。
ガイはルークに近付き「・・・馬鹿野郎っ!」と言うなりルークの頭を大した加
減もせずに引っ叩いた。
アニスがしがみ付いたままで身動きの取れないルークは眼を白黒させながら親友
を見ると、ガイは笑顔で
「お帰り、ルーク」
「うん、ただいま」
ルークもガイの笑顔につられた様に笑う。
ナタリアもまた、涙を流し「良かった。・・・生きていらして」と言い淡く微笑
んだ。
そのナタリアの言葉にルークははっとして後ろを振り向いた。
ルークが振り向くのにつられて四人もまたルークの後ろを見る。
ナタリアは驚きに眼を見開いた。
「・・・・アッシュ・・」
無意識について出た彼の名前。
風の音に掻き消されてしまう程の小さい小さい呟きだったが、それでも青年はナ
タリアの声を聴き取ったのか翡翠色の瞳で彼女を見た。
一歩一歩少しずつ近付いてくるナタリアをじっと見つめる。
ナタリアはアッシュの頬に恐る恐る手を伸ばす。
何も反応を示さないアッシュの瞳を見てナタリアの胸中にある不安が過ぎる。
触ろうとした途端、今、目の前に居る青年が消えてはしまわないだろうか。
この今触れようとしている彼の姿は幻で、本当は既に居ないはずの存在で―――
そう考え、ナタリアは思わずぎゅっと眼を閉じた。
「・・・・・・・・ぁ」
ひんやりと冷たい人肌の感触にナタリアは眼を開けた。
アッシュは消えずに、自分の前に居た。
再び零れ出した涙を見せまいとナタリアは両手で顔を覆う。
「アッシュ、アッシュ!良かった・・・・もう二度と会えないのかと・・・!!」
感極まって言葉の出ないナタリアにアッシュは初めて口を開いた。
「・・・泣くな。俺は、ここに居る」
「・・・・・はい。そう、ですわね。貴方とルークはここに居ますのよね」
必死で溢れてくる涙を拭いながらナタリアは笑顔を作る。
「本当に、お帰りなさい」
ナタリアはアッシュとルークを見て言った。
ナタリアを挟む形でルークとアッシュは一瞬眼を合わせ
「・・・ただいま」
同時に言った。
その様子を離れた場所からジェイドは見つめていた。
「・・・奇跡、か」
言ってからジェイドは苦笑する。まさか自分がこんな言葉を口にするとは。
仲間達に囲まれ、一方は笑いながら、もう一方は仏頂面でそれぞれに会話
を交わしている。
セレニアの花弁がまるで二人の生還を祝うかのように月の輝く夜空を幻想
的に飾る。
ジェイドは生還し、戻ってきた青年二人を赤い瞳に映しながらぽつりと
「お帰りなさい」
自分にでさえ聞き取れないくらいの声量で言うと微かに微笑んだ。
・・・今回はアシュナタ要素っぽいのが含まれましたが
悪魔でアシュルク前提です。
なんだろう、もう赤毛二人が幸せになっちゃえば良いんです。
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