<forget-me-not6>





グランコクマを後にし、再びアルビオールに乗り込み次はベルケンドへと向かう。



検査を受ける赤毛二人はジェイドと共に扉の向こうに姿を消した。

診療所の前で重い沈黙の続くまま暫く待っていると、ジェイドが一人で出てきた。

仲間の視線を受けながら、ジェイドはくい、と眼鏡を押し上げる。

それぞれが不安げな表情をしているのを一巡すると、死霊使いは口端を僅かに吊り上げた。

「いやぁ〜。あの二人は共に体の異常は見られないようですよ」

相変らずの作り笑顔でそうジェイドが言うと、途端に張り詰めていた糸が断ち切られたかのように仲間達は脱力
する。ガイは額に手をやりながら安堵の息を吐き、ティアとナタリアは泣きそうな顔で良かったと呟いている。アニ
スも、あの二人ならまだ当分死なないでしょ〜と明るく言っているつもりなのだろうが、その声は若干震えていた。

それ程、この場にいる者たちは、あの青年二人が心配だったのだろう。




問題無いと告げられた当人達以上に喜んでいる姿を見ていれば解る。


ルークとアッシュは仲間にとって掛け替えの無い存在なのだと。



仲間。ジェイドはふと小さく笑いを漏らした。



自分も仲間のうちに入るのだろうか。そんな事を考える。

もしこの事をまだ扉の向こう側に居る青年に問えば、きっと自分が望んでいる答えをくれるかも知れない。

「当たり前だろう」と。

この答えを期待している自分は余程の自惚れ者だと思う。

死んで下さいと告げた自分を友人だと言ってくれる筈だと考える自分は。





生きて帰って下さい。





あれは、本心からそう言った。彼は眼を丸くして言葉を訊いていたが、次いで、綺麗な笑顔を見せた。










「有り難う。ジェイド」










礼を言いたいのはこちらの方だ、とジェイドは思う。










もしかしたら、この仲間たちの中で一番ホッとしているのは自分かもしれない。



「有り難う御座います、ルーク。・・・無事に帰ってきてくれて」



余り感情をのせない顔に、ジェイドは仲間に見られないよう顔を伏せながら安堵の笑みを浮かべた。
























「う〜ん・・・、体に異常が無いってやっぱり良い事だよなぁ!」

研究所を出て街中をぞろぞろと移動している中、先頭を歩いていたルークは思い切り伸びをする。
伸ばした腕を後頭部に回しながらルークは歩きながら後ろを振り返る。前見てないと危ないぞ、とガイに注意され
るがルークは笑って平気、平気と返し、話を切り出した。

「そう言えばさ。陛下と話してた建設中の街って、何なんだ?」

「あぁ、お前達は知らないんだよな。建設中の街って言うのはな・・・」

「簡潔に言ってしまえば、『レプリカの街』ですわ」

ガイの言を奪うようにナタリアが続ける。常に説明役に回っていたガイはその任から外れた事を一瞬だけ喜んだ
が、その一瞬後には複雑そうな表情を浮かべ、頬を指で掻いた。

何て言うか・・・仕事を奪われた気がしないでもない。もうこれは自分の性なのだろうか・・・。

とかガイが胸中で考えているのはさておき、話は進む。

仲間から僅かに距離を取りながら歩いていたアッシュもレプリカの街が気になるのかナタリアの声が聞こえる範
囲に寄って来た。

「二年前から、世界中のレプリカを保護する為に作られ始めた街ですわ。私が以前お連れしたい場所があると言
ったのは、この街のことなのです」

手間が省けた感じですわね、ナタリアは最後にそう付け足して締めくくった。

話を訊いてルークは建設中の街のことは大体わかった。・・・と思う。

だがもう一つ気になる事がある。

「なぁ、何で陛下は皆をご指名なんだ?」

「それはだな・・・」

「私達がレプリカに対して偏見を抱いていないからよ」

再び自ら説明役を買って出たガイの言葉を、今度は遮る形でティアが言う。
ガイは口を「な」の形のままで固まっていたが、ティアの言葉に耳を傾けているルークを見てその場にしゃがみ込
んで『の』の字を書き始めた。ガイの傍に立っていたジェイドはブツブツと呟いている青年を一瞥するも、それを無
視する。ただアニス一人がそれに気がついて哀れみの眼を向ける。が、当人は気がつかずに只管指で字を書い
ている。

何かもう、色々と重症だ・・・。

「私達は過去にレプリカたちと接触してきた。そして、『ルーク』貴方と共に行動を一緒にしてきた」

「レプリカという存在が如何なるものか、それを私達が一番理解しているだろうと考えられて、ピオニー陛下は我
々をご指名されたんですよ」

それからレプリカについての話をジェイドから簡易説明を受けた。

「そっか。そうだったんだ・・・」

ルークは訊き終えると、前を向いて歩き出した。

何も話さなくなった前を行く青年の背中に、ティアとナタリアは眉根を寄せて不安そうに顔を見合わせる。





突然、世界中に現れたレプリカという存在。

それは人々にとっては畏怖の念を抱くには十分なものだった。

レプリカが一体どういうものなのか、人々は理解しきっていない。

二年前に比べれば差別意識は幾分か無くなって来ていると訊いた。

しかし、複製品というイメージを抱く人間からは酷い扱いを受けているという。





まだこの世界には大勢、こう考えている人間がいるだろう。



所詮はレプリカ。オリジナルの代用品。



お前たちは人間じゃない。















『物』なのだ、と。




















微妙なところで切りました。
いや、話が長くなりそうだったので;;
レプリカ問題は難しいです・・・。
と言うか、前半部分はルーク←ジェイドっぽいですね(笑
アッシュ喋ってない・・・orz
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