<forget-me-not8>
アッシュが一睡も出来ずに迎えた翌朝。
自然に目が覚めたルークは盛大に欠伸をする。眼を擦りながら、隣のベッドを見ると何やらアッシュがぼんやりと
座っていた。
寝起きで余り働かない頭で、取り敢えずは挨拶だろうと脳が指令を出す。
「あっしゅ〜、おはよう」
言ってから、ふあぁぁと再び欠伸をする。
アッシュはルークの言葉には一切反応を示さない。
何だか様子がおかしいと、そう言えばまだピクリとも動いてないよなアッシュどうしたんだろうと近付いて顔を近づ
けた瞬間
「うわあぁ?!れ、レプリカ?!!貴様何時の間に・・・」
ルークの存在にたった今気が付いたかのようにはっとして、その直ぐ後にぐいっとルークの顔を押しのけて、つい
でに思い切り仰け反りながらポカンとしている青年に怒鳴る。
何時の間にも何も・・・。
別に気配を消して近付いた訳じゃないのにどうしてこんなにも劇的な反応をアッシュはするのだろうか。
昨日は部屋に入って早々に寝てしまって、アッシュが何時部屋に入って来たのかも知らない。
ただ、レプリカ問題の話を訊いた後でそれで気が重く考えるのがイヤになったりとかで寝たのも一つの理由だけ
ど。
そう記憶を思い返してみると、やはりアッシュとは昨日は殆ど会話をしていないし口喧嘩もしていない。
首を捻って必死に考えて、ハタと思い至った事が一つ出てきた。
べッドの端からずり落ちそうな状態で居るアッシュにルークは恐る恐る訊ねた。
「俺・・・、もしかして寝言で変なこと言ってたか?」
「・・・別に」
「え、あ、そっか」
「・・・」
寝言ではなければ一体何なのだろう。益々深まる謎にルークは唸る。
アッシュの態度にルークが普段余り使わない頭を必死に回転させていると、ポツリと呟きが聞こえた気がした。
ん?と呟きを漏らしたと思われる同室者を見やれば、相手は光の速さで顔を背けてしまう。
その動作と共にふわりと舞う紅髪が酷く綺麗に見えて。
それを見て、思わず
「やっぱり、アッシュの髪は綺麗だよな」
「なっ・・・、何言ってやがる」
「いや本当のことだよ。凄く綺麗」
笑いながら言えば、アッシュは毒気を抜かれたような顔で見てきた。
初めて見るアッシュの表情にルークはそんなにもおかしなことを言っただろうかと考えてしまう。
常に感情を抑えがちなアッシュがルークの言葉に素に近い表情を晒すとは。
何だかやっぱり、今日のアッシュはアッシュじゃない気がする。
天変地異の前触れか。
レプリカが失礼なことを考えていることなんて回線を繋いでいないアッシュには解るはずも無く。
まさか寝たふりをしていて昨夜起きていたのかコイツは。いや、でも確かに寝ている様だったし、だとしたら本当に
本心から言っているのか。しかし、思うこともレプリカ並みになってきているとは。
レプリカが賢くなったのか、それとも俺が落ちたのか。
アッシュもまた何処かずれたところで思考を廻らしていた。
気まずい沈黙を破るようにドアがノックされる音が響く。
そして間を置かずにドアが開かれ、来訪者がずかずかと入ってきて「お早う御座います」と爽やかに二人へと告
げる。アッシュは仏頂面でそれには応えず、ルークは微妙な表情で挨拶を返した。来訪者は小首を傾げながら
ベッドの上に居る赤毛二人に問うた。
「随分とゆっくりしているようですが、そろそろ宿を引き払いますよ。朝食は食べないのですか?」
「食べる・・・!」
朝食、と耳にした途端ルークは顔を輝かせ、ベッドから飛び降りてドアへと走りそのまま廊下へと姿を消した。
何だか動物みたいですねぇ、とジェイドはのんびりとルークの背を見送り、未だベッドの上で憮然とした表情のま
まで居るアッシュに視線を移す。
「貴方は食べないのですか?」
「・・・いらん」
ぶっきらぼうに言うとジェイドはそうですかとそれ以上何も言わない。しかし部屋を一向に出て行く気配がなく、ア
ッシュは苛々しながら長身の軍人を睨みつけた。
ジェイドはそれを受け止めながら、はぁと聞こえよがしに溜め息を吐く。
「貴方も鈍いですねぇ〜・・・。そんな事だとガイが横から掻っ攫って行ってしまいますよ?」
「は?何の事だ」
「ルークのことですよ。大分鈍いようですね、アッシュは」
「なっ・・・?!どう言う・・・」
「それは貴方自身、ここでよ〜く考えて御覧なさい」
トントン、と自分の頭を指で叩きながらジェイドは言う。アッシュは言葉を切り返せずに口をパクパク開閉させる。
それを見ながら、現役軍人で死霊使いの異名を持つ彼は特有の笑みを浮かべる。何処か含みのある何か裏の
ありそうな、それでいて胸中の中を読ませない完璧な作り笑顔。それを見る度にアッシュは僅かに鼻の頭に皺を
寄せてしまう。今も例外ではなくその表情をしていると、ジェイドはくるりと踵を返しドアノブに手を掛ける。部屋を
出て廊下に踏み出し、それからふと思い出したように閉めかけたドアの隙間から顔を覗かせ眉間と鼻の頭に皺
を寄せている青年に告げた。
「貴方の気持ちはともかく、ルークの気持ちを宙ぶらりんにしておくのは頂けませんね。彼の寝言は訊いたことが
あるのでしょう?誤魔化すのもいい加減止めたらどうですか?」
「・・・っ、うるせぇ!!」
怒鳴りながらドアに向かって力一杯枕を投げつけたが、それは憎たらしい眼鏡には当たらずに絶妙のタイミング
で閉じられたドアにぶつかってポスリ、と床に落ちた。
静けさを取り戻した室内に一人。きつくドアの方を睨みやりながら
「レプリカの気持ちなんか、俺の知ったことじゃねぇ・・・」
自分の気持ちに気付かずに。
『俺は・・・・アッシュのこと・・・・好きだよ・・・・』
「俺はてめぇが嫌いだ」
気持ちとは裏腹の言葉を呟いた。
少しずつ自覚し始めていくといいなぁツンデレ。
ジェイドはルークの「アッシュ好き」云々の寝言は以前
訊いた事があると言う前提で(おぃ
ガイもルークLOVEなのです。
そろそろレプリカ問題に戻ります(多分)(・・・
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