<one more Chance! 〜Mission 0〜>
一度は二つに引き裂かれた世界を再び一つに統合するという旅を成し遂げられた。
仲間たちはそれぞれの目標を掲げて世界に在る。
ひっそりと佇む母親の墓石を前に立ちながら少年はぼんやりと空を見上げていた。
あの青い彼方の向こうに実父は行ってしまった。
哀しく無いと言えば嘘だけど、でも自分にはやる事がまだあるから。
少年は手の甲に光るエクスフィアへ視線を落として、微かに微笑んだ。
「ロイド・・・」
控えめに名を呼ばれ、ロイドは振り返える。
視線の先には旅の途中で出逢った赤毛の少年が二人立っていた。
微妙な距離を保ちつつ並んで立っている彼らの容姿は瓜二つ。
赤毛といっても二人の赤は若干色の違う赤だった。一方は燃え上がる焔の赤をそのまま溶かし込んだ赤髪を伸
ばし、一方は柔らかい夕日のような朱色の髪を襟足の辺りで短くされていた。
それ以外の違いと言えば服装や、髪の長さが異なっている点ぐらいしかないだろう。
マナや神子について何も知らないと言った不思議な雰囲気を纏った二人。
最初逢った時に双子なのかと問いかけた時、赤毛はピタリと声を揃えて「違うっ!」「え、じゃあ親子とか・・・」
「そんなんじゃない(ねぇ)!」全力否定をしていたけどアレだけ息が合っているのを見たら、その否定も疑わしく感
じられても仕方の無い事だと思うのだが。しかし一度その事を突っ込んで話を訊いてみようとしたら、片方の赤毛
が押し黙ってしまい、その赤毛をもう片方が溜め息を吐いて額を指で弾いたりしていたのを見ると、余り訊かない
方が良い内容なのだろうか。そう判断して以来二人の関係を訊くような事はしていなかった。
また別の時に何故旅をしているのか、訊いた事があった。
ロイドにしてみれば素朴な疑問であったのだが、ルークとアッシュは訊いた途端に動きを止めて固まってしまった。
如何したんだとロイド含め仲間たちが赤毛を見ていると、ルークが不意に顔を顰めた。頭痛だろうか。頭を抑え眉
を顰めて、何故かアッシュを睨む。アッシュはその視線を受け流し飄々としている。ルークは諦めたように溜め息
を吐いて
「帰る方法を探してるんだ。今は・・・それしか言えない」
そう言った。
* * * * *
「アッシュとルークはこれからどうするだ?」
ロイドがそう問うと、ルークはちらりとアッシュを見た後
「・・・全然決まってない。よな、アッシュ」
後半部分はアッシュに確認の意で話を振ったのだが、それをアッシュは「知るか」と一蹴する。ルークは思わずむ
っとして
「知るかって何だよ!そんな言い方ないだろ!!」
「知らないものを知らないと言って何が悪い!」
「じゃあ、何か考えてくれたって良いだろ!」
「またてめぇはそうやって他人頼りか?だから何時まで経っても屑なんだよ!」
「あぁー!!もう屑って言わないって約束したのに破るんだ約束っ!」
「・・・っ!うるせぇ、兎に角少しはてめぇの脳味噌を使いやがれ!」
「使って解らないからアッシュに訊いてるんだよっ!馬鹿アッシュ!!」
「だれが馬鹿か!そもそも―――」
「あぁああ!!!解った解った!解ったからケンカは止めろって。な?」
顔がくっ付きそうな位の勢いでぎゃあぎゃあ言い争っていた赤毛の間に身体を割り込ませてロイドは無理矢理話
しの主導権を握る。強引に入り込んできた鳶色の視線に気圧されるように二人は口を閉ざす。
アッシュとルークに挟まれる形のまま、ロイドは人差し指を立てて言った。
「つまり。行く宛が無いわけだろ?」
至極簡潔的で飾り気の一つも無い直球な言葉。
赤毛は言葉に詰まったように黙り込む。
それを見てロイドは笑顔で
「じゃ、また暫く旅を一緒にしようぜ」
「俺たちが居ていいのか?」
「別に全然。寧ろ居てくれた方が助かるかも」
「・・・」
ロイドの提案にルークは再びアッシュへ視線を向けた。すると今度は先の不毛な言い争いからアッシュは学習し
たのか小さく頷くという反応を示した。ルークはそれを確認しロイドに視線を戻す。
「じゃあ悪いけど、もう暫く一緒に居させてもらうな」
「あぁ、お前ら強いから頼りにしてるぜ」
「へへっ、まかせろってーの!」
「・・・どうだかな」
ロイドの言葉に勢い良く頷いたルークを見てぼそりとアッシュが呟く。耳聡く聞きつけたルークはすかさずアッシュ
へ噛み付いていく。先程の経験は活かされたのでは・・・。呆れて物も言えないロイドを置いて、不毛過ぎる言い争
いがまた火蓋を切って落とされかけた時、足下という死角から青く丸い物体が飛び上がってきてルークの顎へ直
撃した。ルークは仰け反ってそのまま引っくり返り、彼を襲撃した物体は空中でアッシュに捕らえられた。
「お、ミュウじゃん」
アッシュに耳を掴まれてぶら下がっている丸っこい生き物を見てロイドが言うと、倒れて痛みの余りに悶絶してい
たルークが飛び起きてアッシュの手からミュウを引っ手繰った。片手で赤くなった顎を摩りながらルークは怒鳴る。
「お前っ、俺に何か怨みでもあんのかよ?!」
「みゅう〜そんなの無いですの!誤解ですの〜」
「だあぁもう・・・!!」
耳を掴んでミュウをぶんぶん容赦なく振り回して叫ぶルークにロイドは苦笑する。
うぜーうぜ−と喚くルークを尻目にアッシュは呆れたように息を吐いて歩き出した。ロイドの家のある方向とは逆に
歩き出すアッシュにルークが声を掛ける。
「何処行くんだよ」
「そこらを歩いてくる」
「ふ〜ん・・・」
横を通り抜けたアッシュを何気なくそのまま見送ろうとした時、ルークは目を見開いて固まった。
「っ、アッシュ?!」
「・・・?!」
何の前触れも無くアッシュの足下に大きな穴が現れ、その中にアッシュが呑み込まれてしまったのだ。ミュウを放
り出し慌ててルークは穴へ駆け寄りアッシュの後を追って中へ飛び込もうした。だがそれはロイドによって止めら
れてしまい叶わなかった。後ろから腰に捲きついているロイドの腕を振り払おうともがくがロイドも放すものかとしがみ
付いてくる。暴れるルークを抑えながらロイドは叫んだ。
「無茶するなって、ルーク!」
「離せよ!アッシュが・・・アッシュ!!」
「落ち着けって!」
「落ち着いてられるか!!」
負けじと怒鳴り振り返ってきたルークの顔を見て、ロイドは言葉を失った。
真っ蒼な顔をして翡翠の瞳には今にも零れ落ちそうな位に涙を湛え、ルークは震える声で言った。
「また・・・またアッシュが・・・・・だら・・・」
「ルーク・・・」
何かを怖れるかのように小さく身体を震わせ、縋る瞳でロイドを見つめてくる。
それは旅の時には決してルークが見せることのなかった表情だった。
不安がる様子も無く常に笑顔だったルークが今では恐怖と絶望の二色で表情を染めている。
ロイドは初めて、ルークにとって何時も傍に居た存在―アッシュがどれだけ大きかったのかを思い知らされた気
がした。
あの笑顔は、彼の隣に常に居たアッシュの存在があったからこその物なのだと。
「アッシュ・・・!!」
ルークの表情に気が取られてしまったロイドの腕から力が抜け、ルークはそのチャンスを逃さなかった。ロイドの
身体を突き飛ばし穴の中へ飛び込む。尻餅をつきながらロイドは慌てて腕を伸ばした。
しかしロイドの指先は服を僅かに掠めただけで届かなかった。
穴へ吸い込まれていくルークを見て置いていかれると思ったのか、ミュウもロイドの脇から穴へ飛び込んでしまう。
「ルーク!ミュウ!」
ロイドが穴に身を乗り出して切迫した声でルークの名を呼ぶが応えはない。
ルークとアッシュが消えた。
愕然として穴を見つめていたロイドは、だから気がつかなかった。
背後から足音を忍ばせて近付いてくる人の気配に。
じわじわと距離を詰めてきた人影は朱の髪を靡かせ、唇に微かに笑みを浮かべる。
「ロイドくーん」
「・・・?!なっ、ゼ、ロス・・・?!おまっ、ちょ・・・あっ・・・!!」
不意打ちで背中から飛びついてきたゼロスの身体を支えきれずに、またロイドの体重を支えていた腕が耐え切れ
ずガクンと折れる。バランスを崩したロイドの背中をゼロスは「おぁ?」「ぜ・・・!」顔面からつんのめるようにして滑
り穴の中へ落ちていく。ロイドは反射的に腕を伸ばすが、やはり後僅かと言うところで届かない。見慣れた朱が黒
へと溶け込んでいくのを、ぎりと歯を噛み締めロイドは見ていた。
「・・・くそっ!一体何なんだよ!!」
地面に拳を叩きつけているロイドの目の前で徐々に穴が小さくなっていく。
三人を助けたい。けれどこの穴の先に何があるか、自分には解らない。
行くか、否か。
「・・・・・・・」
迷ったのは数秒。
ロイドは穴が消えるギリギリに自らも穴の中へ身を投じた。
落下していく浮遊感を感じながら、一体この先に何があるのだろうと頭の中の冷静な部分が疑問を抱く。
こんな体験は初めてだ。
コレットは俺が急に居なくなって吃驚したりしないだろうか。
慌ててドジして怪我してなきゃいいけど。
そう思いを廻らせていると、突然思考がプツリと途切れてしまい後は何も解らなくなってしまった。
預言を覆し同位体の者たちよ。
今一度機会を与えよう。
死した被験者と消え逝く運命に遭った複製品。
彼の世界で巡り得た仲間と共に。
さぁ、もう一度・・・。
生き延びる術を見出して世界を蒼々と輝かせてみよ。
ほら・・・瞼を持ち上げれば、そこには懐かしい―――
疾風丸様よりリクエスト頂きました
『別世界のキャラも交えて赤毛+ミュウ逆行物語(簡略化)』
です。悩んだ挙句別世界はTOSを利用する事にしまし
た。キャラが一番動かし易いかなぁと思いまして(書き手が
やはり長編となりますこのお話。お付き合い頂けると幸
いです!
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03.30
※この長編は疾風丸様のみお持ち帰り可となっています。