<one more Chance! 〜Mission 2〜>
外の騒ぎを聞き付けてか、ジェイドとティアが艦内から戻って来て鮮血のアッシュを目にした途端戦闘体勢に入
ろうとした。しかし、アッシュに抱き締められているルークを見て、最初は人質にされていたのかと思ったのだがど
うやらそれは全くの見当違いだったらしい。ぐずぐず鼻を啜って泣き腫らした目を擦るルークを覗き込むようにして
様子を見ている髪色に紅蓮を宿すアッシュの姿は、六神将たちから見てもジェイドとティアから見てもかなり変だ
った。挙句神託の盾兵の上に腰を下ろしたこれまた端正な顔立ちの朱髪がぼけっと傍観をしている。他の兵士た
ちもどう動いたら良いのか解らないのかその場に立ち尽くしていた。ティアは唖然として赤毛を見ていたが、傍で
冷えた声音が響くとハッと我に返って背筋を伸ばした。
「状況が大分混乱しているようですが、準備は宜しいでしょうか?」
背後に極寒の如く吹雪を舞わせたジェイドが笑顔で眼鏡を押し上げそのまま右手に槍を構えてそれを一振り。
隣に居たティアが危険を察知して安全圏へと逸早く逃れる。アッシュはルークの目尻にあった涙の雫を指で掬い
ながら、うるせぇこのクソ眼鏡などと暴言を吐いている。流石アッシュ、例え不審な目をリグレットから向けられて
いてもそこは素敵にスルーなんだな。てか、ジェイドが怖ぇよ・・・!ジェイドの纏うオーラがピリピリとしだした事に
気が付きながらも未だに絡みついた半身の腕を解けずにルークは胸中で悲鳴を上げる。我道を進むのは良いけ
どすっごいアッシュらしいけど!今のこの状況では不味いって。ルークは必死に助けてくれそうな人間を探す。
と、二メートルほど離れた場所で仏頂面の半眼でこちらを見ているゼロスを発見して、手を貸してくれそうな気配
の無い彼へ叫んだ。
「ゼロスっ!ぼさっと見てないで助けてくれよ・・・!!」
「別に良いんでないの?いつまでもそうやってイチャついてれば〜?」
あからさまに機嫌を損ねている風のゼロスの物言いに、ルークは先程とは別の意味で涙を浮かべながら、頼む
から!と懇願する。その間にもアッシュは槍を携えた死霊使いを睨み剣を抜こうとしているのでそれを慌てて押し
留めようと、ルークは今度は自らアッシュの身体に抱きついた。こうでもしなければアッシュは動きを止めない。
ルークがアッシュにしがみ付くと、途端に被験者の動きがピタリと止まる。抱きつけば停止するその辺りを熟知し
ているルークとアッシュの関係はやはり相当に深い『何か』があるのだろう。だがルークが抑えられるのはアッシ
ュのみで、赤い瞳を鋭く細めた軍人の動きを止める事は出来ない。今更、とでも思えるのだが、漸く緊迫した空気
に転換した艦橋でジェイドの槍がアッシュの身体を貫こうと閃く。リグレットが小さく舌打ちをして動かない(動けな
い)アッシュの助けに入ろうとしたが、横合いから飛来してきたナイフに行く手を阻まれた。譜銃を構え、見やる先
には杖を正眼に持ったティアの姿があった。このままではアッシュがやられてしまう。リグレットが僅かに焦ってア
ッシュの方へ視線を向けたその時。キイィン、と槍を剣が弾き返す光景があった。それはアッシュの持つ剣でもな
く、羽交い絞めと言うある種の暴挙に出ていたルークの物でもなかった。くっ付いたままの赤毛たちを背後に庇う
ように前に立っていたのはアイスブルーの瞳と朱髪を持った青年だった。死霊使いの槍術を難なく受け止めた青
年ははぁと溜め息を吐いて、俺さま早く帰りたーいなどと零している。余裕さえ感じられるその態度にジェイドの目
が剣呑な光りを宿す。一度身を引いてゼロスから距離を取った後で恐ろしく含んだ笑みを浮かべる。
「見たところ貴方は神託の盾兵には見えませんが、何故鮮血のアッシュを庇い立てするのですか?」
「・・・知っている人間が目の前で殺されるのって気分が良いもんじゃないでしょ?」
ゼロスもにっこり笑い、言葉を返す。死霊使いと神子の間に冷たい風が吹く。
ごくりとルークが固唾を呑み事の成り行きを見守る。周りの空気を呑み込んで対峙する二人を取り囲んだまま兵
士たちはどうしたのもかと突っ立っている。いつまでこの状況が続くのかと誰もが思い始めたとき、ジェイドが動い
た。ジェイドは槍を消滅させ、ルークをちらりと見る。視線を投げられたルークはん?と首を傾げたが、ジェイドの目
が僅かに右横に動いたのでちょっとだけ首を動かした。
そこで漸く気が付いた自分の状態。ぶわぁと顔を一気に朱に染めたルークがアッシュの身体からぱっと離れた。
次いでルークはうわ、わぁうわぁと言葉にならない声を上げて
「いや、これは何て言うか、そ、そう!咄嗟の防衛手―――」
「詳しい事は後でじっくりと聞きます。今はこの状況を打開する方が先決ですよ」
「・・・はい」
ジェイドは小さく答えた赤毛に良い子ですねと笑い、ルークが離れて動けるようになったアッシュがゼロスに蹴り
を入れているのを眺め
「ひとまずタルタロスを降ります」
断言したジェイドの言に反論するものは居なかった。
しかし六神将がそれを許す筈も無く、外まで逃げる事は出来たもののアニスとイオンを追いかけていた神託の盾
兵に囲まれてしまい逃げ道を塞がれてしまった。
兵士の一人に捕まったイオンが不安げな表情を浮かべてルークたちを見ている。
艦橋ではアッシュとリグレットを捲いたが(アッシュは自ら追いかけることはしなかった)アリエッタが途中飛び出し
てきて場所が悪く防戦を強いられていた。
剣を構えながら、じりじりと距離を縮めて来る敵に警戒しつつルークはつと頭上を振り仰いだ。
太陽の中心に黒い点が一つ。それが徐々に大きくなっていく。
スタン、と舞い降りた日光を反射する金髪が素早く駆け抜け、イオンを拘束していた兵士を切り伏せ救出する。
それを合図にジェイドも素早く槍を取り出してアリエッタへ突きつけた。
瞬き三回の内に形勢が逆転し、ルークたちが一気に優勢となった。
イオンを脇に抱えたまま、金髪の青年は
「ガイ様華麗に参上」
「・・・・・・」
アホ神子がこの場に居たら絶対何か突っ込みを入れただろう決め台詞を吐いた。
リグレットは頑としてルークたちを追おうとはしないアッシュを置いて兵士を引き連れて艦橋を後にし、その場には
赤毛二人が取り残された。
手にしていた剣を鞘に収め、ゼロスはちらりとアッシュを見た。
横目で見ただけでは窺い知れない感情を抑えた表情。
「これからどーするんだ」
「ルークに付いて行って欲しい」
「ルークに?それで、お前は?」
「俺は別にやる事がある」
相変らず核心に触れない言い方するねぇと半眼になっていたゼロスをアッシュは静かに見据えた。その視線に
曝されてゼロスは胸中で舌打ちをした。
あぁ、またこの目だ。
何か大きなものを抱え込んでいるのに、それを決して他人に曝け出そうとしない強固なまでの意思を湛えた瞳。
その翡翠の奥に一体どれ程の業を背負っているのだと言うのだろうか。
一瞬、アッシュの双眸に鳶色の逆毛の少年の茶色い双眸が重なって見えた。
幼馴染の少女を絶対に助けると決意して宣言した時の、あの表情と今のアッシュの表情は似ている気がした。
ゼロスはらしくない苦笑を漏らし、アッシュの頭をぞんざいにかき回した。すれば当然の如く何すんだてめぇと吼
えるアッシュにゼロスは言った。
「約束、守れよ」
「・・・指切りはしないがな」
「何だそりゃあ」
「良いから早く行け!」
そんな軽いやり取りの後、ゼロスははいはいと返事をしてアッシュに背を向けて歩き出す。
アッシュもまた艦内に戻りこの先に起こる悲劇を阻止すべく思考をフル回転させる。
同じ悲劇は二度もいらない。
ゼロスは称号『ちょっとお兄ちゃんポイ?』を手に入れました。
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05.21
※この長編は疾風丸様のみお持ち帰り可となっています。