one more Chance! 〜Mission 3〜





「んで、追いかけようとアレを降りたはいいものの・・・」

何処行った?ゼロスは左右を見渡してぼやいた。
別れてからそう時間も経っていないと思って少しばかり悠長に構え過ぎたのだろうか。飛び降りるのは
性に合わないとか考えて艦内から出入り口を探すのに無駄に時間が掛かってしまったのもいけなかっ
たか。しかしそうは思いながらも、面は反省した風も無く涼しい顔で歩を進める。地面に転がった神託の
盾兵が視界の隅にちらつくが別に自分には関係ないので特に気に掛ける事もしない。今気に掛けるべ
きはルークたちがどの方向に向かったか、だ。

「まぁ、とりあえず・・・」

右。なんて適当に進む方向を決めて無造作に朱髪を片手で払う。
まぁ、暫く行けば標識とかあるだろう。

広い草原を瞳に映し、お気楽思考の神子は口端を持ち上げて笑った。










*   *   *   *   *










「何かあったのか?」

「・・・え」

カイツールを目指し歩いていたところで陽も暮れ、野宿をしていた。
焚き火を囲んで仲間が身体をそれぞれに休めている中で、ガイの隣に座ったルークにガイが唐突にそ
う振って来た。ルークは焚き火を見つめている幼馴染の横顔を見て瞳を揺らめかせ、急にぶはっと吹き
出した。

「何かあったって・・・、そりゃ沢山あったじゃねぇかよ」

極力ガイの問い掛けに動揺したことを隠しながらルークはガイをからかうように言った。しかしガイはそ
うじゃないと言ってルークの言葉を否定した。焚き火から、表情を僅かに硬くしたルークへ視線を移し蒼
の双眸で見据え

「・・・記憶が戻ったとか、したんじゃないか」

「・・・・・・」

「お前、俺に何か隠しているだろ」

「別、に・・・隠してねぇ」

それだけ喉の奥から搾り出すとルークは逃げるように立ち上がってガイの傍から離れた。ガイが呼ぶ声
が聞こえたが無視する。ジェイドの前を通り過ぎる時「余り離れないようにして下さいね」「わかってる」忠
告されてぶっきらぼうに返事を返して焚き火の灯りが届くが否かの場所で立ち止まり仲間の居る方を振
り返った。灯りに照らし出されたガイの顔がこちらを向いている。不安そうな表情をしたガイにルークは自
分を気に掛けてくれている青年に申し訳ない気持ちになったが、まだ全てを語れない以上余計な事を口
走ってアッシュに怒鳴られるのは勘弁だからこうするしかないんだと自分に言い聞かせる。
ごめんなガイ。
そっとルークは謝罪を口にして、焚き火に背を向けてすとんと腰を下ろした。
天上を仰げば、夜闇に瞬くいくつかの小さな光が見える。

「何処の世界でも、やっぱり空は似たようなものだよなぁ・・・」

違いは音符帯がないことくらいだろうか。

ふとロイドやジーニアスと仰向けに寝て空を見ながら話していた時の事を思い出して、ルークは小さく笑
いを漏らした。

確かジーニアスが好きな人が出来たら、なんて話題を持ち出して変に盛り上がっていた気がする。女
遊び大好きのゼロスが途中参戦して話しは逸れていき、ロイドが彼にしてみればアホ神子の口から吐
き出された内容に対して、純粋な疑問を抱き口にしたのだったがゼロスとジーニアスが絶句し、ルーク
もロイドと共に首を傾げていた。三秒後ショックから復活したゼロスは少しばかり悩む素振りを見せた後
で「まぁ、この先必要な知識だから教えて―――」「この屑、余計な知識を吹き込むんじゃねえ!」アッ
シュがやって来てゼロスの頭上目掛けて剣の鞘を落とすと言う暴挙で撃沈させた。鈍い音に思わずル
ークとロイドは首を竦めた。アッシュの彼に対する扱いは酷い。しいなも容赦なく殴ったりしていたがそ
れなりの加減はされていた様な気がした。が、アッシュの場合は加減なぞ知るかとそのまま顔に出して
ゼロスへ一撃を浴びせる。女性のしいなと違いアッシュは剣を振るい日々鍛練を重ねていたのだから
力はかなりのものだ。その都度ゼロスは蛙が潰れたような声を上げるか、または無言で地に伏してい
た。ゼロスに何か恨みでもあるのかと周りが思うくらいにアッシュのゼロスに対する態度は手厳しかっ
たのだ。



「そういやゼロスは今アッシュといたよな・・・。大丈夫なのか、アイツら」

何気なく口にしたルークの疑問に、暗闇から聴き慣れたひょうきんな声が答えた。

「何なに?ルークくん俺さまの心配してくれてるんだ」

「わっあ?!ぜ、ゼロス・・・?!」

「こんな美人、俺さま以外に誰がいるって言うんだよ」

突然逆さまにゼロスの顔が現れて、ルークは驚いて引き攣った声を上げた。ゼロスは肩に掛かった朱
髪を払い除けルークへ方目を瞑って見せる。

「これからルークと一緒に行動するから。よろしく頼むぜ〜」

「は?え、何で、アッシュは?」

「アイツから頼まれたんだよ。ルークの所に行けって」

「頼まれた・・・?命令じゃなくて?」

「イェス」

頷くゼロスに、ルークは気の抜けた声でそうなんだと呟いた。
その時、後ろからガイの声と慌しくこちらへ駆けつけてくる足音が聞こえてきた。恐らくはルークの悲鳴
が仲間たちの方まで聞こえてしまったのだろう。一番先にルークの元まで走り寄ってきたガイはルーク
に怪我がない事を瞬時に確認して、近くに立っていた朱髪へ斬りかかって行った。ゼロスは横一閃され
た攻撃を交わし、せっかちだなとガイを半眼で見る。ルークを背後に庇うように立って剣を構える金髪の
青年に、庇われていたルークが慌てて立ち上がりガイの前に両腕を広げて攻撃を止めるよう言った。

「ガイ、違うんだ!コイツは敵じゃ―――」

「おやおや。また貴方ですか」

「そう言うアンタこそ、生きてたのか。てっきり死んだのかと思ってたぜ」

ガイを落ち着かせようとしていたルークの声を遮り、後から現れたジェイドとゼロスが言葉を交わす。面
識があるらしいジェイドとゼロスのやり取りにガイは躊躇った後、ルークを見て一先ず剣先を下ろした。
攻撃態勢を解いたガイにルークはホッと息を吐き、今度は舌戦を繰り広げ出しそうなゼロスとジェイドの
間に立った。

「ジェイド、ゼロスは敵じゃないから平気だって。俺たちの味方だ」

「・・・ルークの味方であって、コイツらの味方じゃないけどな」

微妙な訂正を入れたゼロスにルークは微苦笑し、再度ジェイドを見て、な?信じてくれよと言えば、死霊
使いは無言のままルークを見返し小さく嘆息を零すと踵を返して焚き火の方へ歩き出した。認めてくれ
たかは置いておいて、取り敢えずジェイドはクリア。続いてルークは剣を片手に不信感を露わにした金
髪の青年に向き直った。

「どうして屋敷を出たことが無いお前が、俺の見も知らない人間を知っているんだ」

「・・・・・・」

「答えてくれルーク」

「・・・、それ、は・・・」

口篭るルークに、ガイは口調を強めて再度ルークの名を呼んだ。ルークはビクと肩を震わせ、拳を握り
締め俯く。

「・・・言えない」

たった一言。
ルークがそう口にすると、ガイは僅かに顔を歪めた。何処か傷付いた様な、そんな表情。少しだけ顔を
上げてガイを見て、あぁ、またガイの信頼を裏切ってしまった。ルークもまた苦しくなって胸元を抑える。
そんな二人を端から見ていたゼロスは交互にルークとガイへ視線を向け

「何コレ、気まずい雰囲気?俺さま席外そうか?」

冗談とも本気とも付かない事を言う。ルークはいや、良いよと首を横に振り、ガイ、と親友の名を音に乗
せた。

「ガイ・・・。俺、まだ何も言えないけど。だけど、信じて欲しい・・・って言うのは、俺の身勝手な言い分かな」

「・・・・・・。それが今のお前の答えなのか」

「うん」

「そうか」

ガイはそれだけ言うと、くるりと身体を反転させて歩き出した。ルークがそっと呼べばガイはいつもの笑
顔を浮かべて肩越しにルークを見て

「俺はいつでもお前を信じてるからな。お前がそう言うなら、俺は本当の事を言って貰えるまで待つさ」

肩を竦める仕草を見せた後、ゼロスへついと視線を流す。

「ゼロス・・・だったかな?俺はガイ・セシルだ。よろしくな」

「・・・ヨロシク」

「ほらゼロスのこと、皆にはお前が説明しなくちゃならないんだから、早く来い」

「あ、うん」

手招くガイの隣にまで走り寄り心底安堵したような表情を浮かべるルークを、ゼロスは冷めた目で見つ
めてふ〜んと声を漏らす。

絶対的な信頼感を見せるルークとガイに、ゼロスの心は酷く掻き乱されていた。



信じていると真顔で告げてきた鳶色の逆毛の少年を思い出し、ゼロスは無意識に呟いた。



「          」










*   *   *   *   *










所変わってエンゲーブ。

食料泥棒の件に漸く一段落ついた頃、村の入り口に一台の荷馬車が到着した。
後ろの荷台からひらりと飛び降りたのは赤を基調としてボタンが沢山付いた少々特徴あるデザインの服
を着た鳶色の髪の少年。首の後ろからヒラヒラと靡く白い二本の細いリボン状の紐を翻して、少年は手
綱を引く男性に無邪気に笑い声を掛けた。

「お疲れっ!また街に行くことがあったら言ってくれよな!」

「おう、今日は助かったよ。それじゃあ」

「あぁ!」

走り去る馬車に大きく手を振り、うんと背伸びする。
そして帰ってきたことを報告する為に村長のローズの家へと足を運ぶ。
道行く先々で親しげ声を掛けてくる村人に笑顔で応じながら少年は辿り着いた家のドアをノックした。余
り間を空けずに開かれた扉の内側から現れたふくよかな体格をしたローズはにっこり笑って少年を迎え
入れた。

「お帰り、ロイド」

「ただいま。ローズさん」

ロイドもまた笑顔で返した。





「最近、何かあったのか?微妙に村の人たち慌しかったけど」

椅子に座ってロイドが訊ねるとローズはあぁ、声を上げて苦笑した。
二つのカップを準備し、一つにはミルクを、もう一つにはブラックコーヒーを注いでテーブルへ置く。ミル
クの方をロイドへ差し出して自分はコーヒーをひとくち口に含んでから話し出した。

「お前さんが居ない間に色々とあったんだよ。お偉い軍人さんや元気な坊やが来たりしてさ。その坊や
が林檎をお金を払わずに食べちまってね、それで食料泥棒だって疑惑が上がったのさ。でも実際は違
って、ついでに食料泥棒の件も数日前に無事解決したんだよ」

「へぇ、解決したんだ。泥棒騒ぎ」

「お陰様で、ね。ところでどうだい?用心棒の仕事は」

「今日は魔物も特に出なかったし、思っていたより大分楽かもな」

「そうかい、それは良かった」

ローズはロイドの返答に声を上げて笑った。

ロイドはこの村の前で気絶して倒れていた所を村人に助けてもらったらしく、目を開けて最初に視界に
入ったのがローズの姿だった。
見知らぬ土地でロイドが行く宛ても無いと話すと、この豪快な性格をしている女性に寝床を与えてもら
うのを条件にエンゲーブを発つ荷馬車の用心棒をする事になった。腕の立つ用心棒が道中付く事で近
隣の街へ食材を運ぶ人たちには好評だった。

カップの中のミルクを飲み干したロイドはご馳走様、と言うと立ち上がる。
寝床として一室を提供してくれた宿へ戻ろうと戸口まで行って、先程の会話で気になった事があったの
を家を後にする前に訊ねてみた。

「そういや坊やって、子供?」

「違うよ。お前さんと同じくらいの、だよ。名前は」

ルーク。



名前を訊いた瞬間、ロイドの瞳が大きく見開かれた。



















別にゼロロイとかロイゼロではありません。・・・たぶん。
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07.01

※この長編は疾風丸様のみお持ち帰り可となっています。